第174回通常国会 本会議(2010年3月19日)
厳しい経済情勢のなか、高校無償化法案の意義を強調
今回、教育費負担の軽減を求める国民の声を受け、鳩山内閣は、高校授業料の無償化に大きな一歩を踏み出しました。これまでの政権では実現することができなかった政策を、政権交代からわずか半年間で準備されたわけであります。政府関係者に心より敬意を表したいと思います。
○加藤敏幸 民主党・新緑風会・国民新・日本の加藤敏幸です。
会派を代表し、議題となりました公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律案に関し、賛成の立場から質問をいたします。
本法案は、公立の高等学校については授業料を徴収しない、また私立高校等については生徒が授業料に充てるための高等学校等就学支援金を支給することで、教育に係る経済的負担の軽減を図ろうとするものです。
我が国では、家計収入が低迷する中、子供を育てる家庭での教育費負担は一段と重くなっています。とりわけ、高校からは一挙に教育費負担が増え、子供のためには無理をしてでも教育費を捻出するという、これまでの日本の家計の姿も限界に近づきつつあります。
そして、今回、教育費負担の軽減を求める国民の声を受け、鳩山内閣は、高校授業料の無償化に大きな一歩を踏み出しました。これまでの政権では実現することができなかった政策を、政権交代からわずか半年間で準備されたわけであります。政府関係者に心より敬意を表したいと思います。
さて、我が国の初等中等教育では、予算措置を伴う政策的課題が山積しています。学級の少人数編制、校舎の耐震化改修、あるいは理科、科学関係教科の充実など、優先課題は幾つもあります。しかし、今回、政府は高校授業料無償化を最優先され、約4千億円にも上る膨大な予算を確保されました。まず、この高校授業料無償化を最優先されたことにつきまして、その政策意図、政策目的を端的に説明していただきたいと思います。
次に、直面する卒業クライシス問題を取り上げます。
2000年代半ばに回復基調にあった我が国経済は、2007年にはサブプライム問題、そして2008年にはリーマン・ショックによって再び雇用と家計が直撃される深刻な不況に陥りました。そして、多くの家庭が困窮し、全国的に高校生の授業料滞納という事態が生じました。
昨年3月末時点で高校の授業料滞納者は、公立高校で0.4%、私立高校では0.9%、人数では約1万7千名に上りました。また、昨年は2208名もの高校生が経済的理由で中退を余儀なくされました。今年度も、依然として厳しい経済情勢が続く中、授業料滞納者や中途退学者が多数出ていると思われます。卒業式シーズンの今、授業料滞納のために卒業できないという卒業クライシスを何としても防がなければなりません。
現在、各都道府県が家計急変世帯などに対し授業料の一部を補助する私立高等学校等授業料軽減助成事業を実施していますが、文部科学省は更なる対策として修学支援基金の積極的活用を打ち出されています。この支援策は、各高校が生徒の家庭状況をきちんと把握し、制度の活用を保護者に周知することが重要です。何よりも急がなければなりませんが、文部科学省としての取組状況を説明していただきたいと思います。
次に、授業料外負担の問題を取り上げます。
高校授業料無償化が実現しても、PTA会費、生徒会費、教材費、制服費、旅行積立金、通学費など、いわゆる授業料外負担と言われる教育費が家計に大きくのしかかります。この負担は、平均して、公立高校で年間約24万円、私立高校では約46万円掛かると言われています。さらに、私立高校の場合は、高額な入学金や施設設備費の負担があり、一部、一口10万円の寄附金や学校債の募集もあります。
都道府県によっては、入学金軽減助成制度なども実施されていますが、これら授業料以外の負担は依然として大きく、文部科学省としても、奨学金の充実を始め負担軽減化のための施策を真剣に検討していく必要があると考えます。大臣の考えをお聞かせください。
また、教育費負担では、修学旅行積立金が平均して年間5万円から10万円と大きな割合を占めています。最近は積立てができない生徒も増えていると聞きます。この際、修学旅行につきましても、教育効果そのものを検証していく必要があると思います。また、経費の効率化を図り、家計に過大な負担を与えない方策についても検討すべきだと思います。文部科学大臣の所見をお伺いしたいと思います。
次に、定時制高校の課題について質問します。
経済的理由による授業料滞納や退学を回避するためにも、これまで多様な役割を担ってきた定時制高校を活用していく必要が出てきたと思います。定時制高校の充実に関して大臣の御所見をお伺いします。
また、授業料の無償化措置に伴い、経済的理由から定時制高校に通っている生徒が全日制を希望するケースも出てくることが考えられます。特に、定時制から全日制への転学では、単位の問題、転学要件の問題が障害となります。生徒の多様なニーズにこたえるためにも、転学についても柔軟な措置がとられるべきだと考えますが、文部科学省の考えをお聞かせください。
最後に、私立高校が持つ諸課題について質問します。
現在、私立高校の高校生は全高校生の30%を占めています。そして、私立高校の授業料は平均で年間35万円と言われています。今回、就学支援金が支給されても、ほとんどの私立高校では本来の授業料との差額徴収が継続されることになります。基本的には、公立、私立間の格差を縮小するために、今後も私立高校や高校生を支援する追加的施策が必要になってくると考えます。
一方で、公立、私立間の教育費負担の格差が縮小すると、生徒集めなどにおいて公立、私立間で一定の競争原理が働いてくることになります。
現在、多くの都道府県では、公立、私立間で入学定員のすみ分けが行われていますが、今後は、特色ある教育を自由に展開できる私立高校の方がより優位に立ってくる可能性があります。地域によっては、質の高い教育を提供する私立高校と生徒を集める力を失った魅力のない公立高校という構図ができ上がるかもしれません。既に、大阪府では、高校間の競争を促進し、府立高校でも生徒を集めることができない高校は退出してもらうというような議論も行われています。
私学は、宗教的理念や教育理念に基づく建学の精神を教育実践し、個性豊かな人づくりを展開してきたという歴史があります。しかし、今日、少子化が進む中で深刻な経営問題にも直面しています。今回の高校授業料無償化政策は、この私立高校を教育全体の中でどのように位置付けるのか、あるいは国、自治体はどのように私立高校を支援し公立高校とのバランスを取っていくのかという基本的な課題をも浮かび上がらせました。
この課題については、各都道府県が地域主権に立って主体的に検討されることを期待しますが、文部科学省としても何らかの基本的指針を打ち出すべきだと考えます。大臣の所見を伺い、私の代表質問を終わります。ありがとうございました。
○川端達夫 文部科学大臣 加藤議員にお答えいたします。
7点質問をいただきました。
最初に、高校の実質無償化の政策意図及び政策目的についてお尋ねがありました。
高等学校等への進学率は約98%に達し、国民的な教育機関となっており、その教育の効果は広く社会に還元されるものであることから、その教育費について社会全体で負担していく方向で諸施策を進めていくべきであります。
また、高等学校等については、家庭の経済状況にかかわらず、すべての意志ある高校生等が安心して教育を受けることができるよう、家庭の経済的負担の軽減を図ることが喫緊の課題となっております。
特に、高校生のいる世帯の教育費の負担は、それ以前の学校段階の子供のいる世帯と比較して重くなっており、これらの負担の軽減を図ることが必要であります。
さらに、多くの国で後期中等教育を無償としており、国際人権A規約にも中等教育における無償教育の漸進的な導入が規定されるなど、高校無償化は世界的な常識であります。
このようなことから、高等学校等における保護者の教育費負担の軽減を図るため、公立高等学校に対しては授業料を不徴収とするとともに、私立高校等については高等学校等就学支援金を支給するものであります。
次に、卒業クライシスを起こさないための支援策の周知についての取組についてお尋ねがありました。
経済的理由により修学困難な高校生に対しては、すべての都道府県において公立高校授業料の減免や奨学金事業を実施するとともに、私立高校が行う授業料減免措置への補助が行われており、この補助に対し、文部科学省が私学助成としてその一部を補助しているところであります。
さらに、平成21年度第一次補正予算において、都道府県に新たに高校生修学支援基金を設け、都道府県による高校奨学金事業への支援の充実を図ったところであります。これらの支援施策の活用を図るため、本年2月に各都道府県教育委員会等に対して高校生や保護者等への周知を図るよう依頼するとともに、各学校において生徒や家庭の事情を十分に把握した上で相談に応じるなどの配慮を求めたところであります。
文部科学省としては、学ぶ意欲のある高校生が経済的理由によって学業を断念し、又は卒業できなくならないように努めてまいります。
次に、授業料以外の負担軽減についてお尋ねがありました。
経済的理由により修学困難な者の授業料以外の教育費負担については、高校の実質無償化後においても引き続き各都道府県が行う高校奨学金事業により軽減が図られるものと認識しております。
また、先ほど述べた高校生修学支援基金により、高校奨学金の希望者数の増に対応したところであります。この高校生修学支援基金では、私立高校の授業料のほか、施設整備費の減免補助にも活用できることから、各都道府県においては、これも活用し、地域の実情に応じて低所得者世帯への支援を充実することを期待しております。
奨学金の充実については、給付型奨学金の創設も大変重要な課題と認識しており、必要性を踏まえて来年度に向けて検討してまいります。
次に、修学旅行についてお尋ねがありました。
修学旅行は、集団への所属感を深め、より良い学校生活を築こうとする態度を育てることなどを目標として、各学校が実情に応じて計画を実施するものであります。
文部科学省では、修学旅行の実施に当たっては、このような教育的効果を主眼に旅行地を選定するとともに、実施に必要な経費をなるべく低廉にし、すべての児童生徒が参加できるよう計画することなどについて教育委員会等を通じて各学校に求めてきたところであります。このことを踏まえて、各教育委員会等においては、旅行期間、見学先、費用等について実施基準を設け、上限を定めるなどしております。また、最近の修学旅行では、見学中心の活動のみならず、農業体験、自然体験、職業体験などの特色ある活動が行われるようになってまいりました。
文部科学省としては、今後とも、各学校において、より教育的効果の高い修学旅行が家計に過剰な負担を招くことなく実施されるよう促してまいります。
次に、定時制高校の充実についてお尋ねがありました。
定時制高校は、経済的事情により働きながら学びたいという者に加え、多様な入学動機や学習歴を持った者が学ぶ場となっています。このため、これまでも多様な履修形態による特色ある教育活動を展開できるよう、単位制高校の導入や修学年限の弾力化など様々な制度改正を行ってきたところですが、今後とも社会や生徒のニーズに応じた定時制教育の改善充実を図ってまいります。
次に、定時制から全日制への転学についてのお尋ねがありました。
定時制から全日制への転学については、学校教育法施行規則において、修得した単位に応じて相当学年に転入することができることとされています。また、転入学については、各高等学校等の判断により具体的な要件が定められ、その判断に基づいて許可されているものと承知しております。
文部科学省としては、これまで高等学校における転入学者の受入れの一層の促進を図る観点から、各都道府県教育委員会に対し、受入れ機会の拡大や手続の簡素化、情報提供などに関して指導してきているところです。今後とも、高校生の転入学等が円滑に行われるよう努めてまいります。
最後に、高校の実質無償化に伴う今後の公立高校と私立高校の関係についてお尋ねがありました。
公立高校については、授業料の無償を確実に措置するとともに、事務負担の軽減に資するため、授業料を不徴収とすることとしております。また、私立高校に対しては、公立高校生一人当たりの負担軽減額と同等の額を支給するとともに、低所得世帯の生徒に対して手厚い支援を行うこととしております。これに加え、現在都道府県が独自に行っている授業料減免補助が就学支援金に上乗せされることにより支援が充実することを期待しており、当該補助に係る地方交付税についても、対前年度30億円増の約50億円が措置されております。
このように、低所得世帯の私立高校生に対しては手厚い支援を行うこととなっており、公私間格差は縮小すると考えられております。また、公立高校と私立高校は高校教育においてそれぞれ重要な役割を果たしており、公立高校、私立高校のバランスについては、それぞれの役割も踏まえつつ、各都道府県に設置されている公私立高等学校協議会において各地域の実情に応じた適切な対応がなされるものと考えています。
文部科学省としては、今後、御指摘の私立高校への支援の在り方も含めて高校の実質無償化に係る効果や課題を検証するとともに、その結果に基づき、公立高校、私立高校それぞれの役割も踏まえ、支援の充実に努めてまいりたいと考えております。
