政策レポート

2011年11月15日

産業空洞化を懸念 「2011年ものづくり白書」

 政府は、10月25日の閣議で、日本の製造業の現状と課題を展望する「ものづくり白書(2010年度版・ものづくり基盤技術の振興施策)」を決定しました。今回の「白書」は、東日本大震災の影響、原子力発電所事故、これによるサプライチェーンの途絶、さらには夏からの急激な円高のもとで、我が国の産業の国際競争力の低下と産業の空洞化の懸念が一段と高まっていることに強い危機感を示し、国内の生産拠点を維持・強化に資する施策の重要性とその具体的施策を提示するものとなりました。 

 まず、大震災の影響ですが、地震・津波の直接被害、サプライチェーンの寸断による製造業全体への間接被害、電力供給制約と火力発電による電力コストの上昇、放射能汚染の風評被害など多岐にわたり、我が国「ものづくり」を取り巻く環境は大きく変化しました。今日まで、被災工場の再建やサプライチェーンの回復、あるいは日本ブランドの再興に関し、当該企業や政府による懸命な努力が続けられた結果、輸出も増え、7-9月期の国内総生産はプラス成長になるまで回復しました。

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 一方、日本企業の海外に進出に関し、「白書」は、日本の工場を移管する理由として、「低コスト生産への対応」から「グローバル市場の開拓」へ変わりつつあることを指摘しています。また、コスト競争力の劣る製品に加え、経営上重要な主力製品や中核技術の海外シフトも進行している状況も挙げています。しかし、この海外展開の質的変化に関し、ある企業調査では、コア技術を海外に移管した企業の半数程度が「技術流出があった、またはあったと思われる」と回答しており、今後、リスク管理の徹底化などの対策が求められます。

 また、海外展開の新案件では、「為替対策」というものも増えており、今後は円高対策や、遅れている経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)整備、レアアース(希土類)の確保対策などをすすめ、日本の企業・工場を国内に止めさせる方策を講じていくことが重要です。

 大震災と国際的な構造問題によって厳しい状況に立たされている我が国の産業を立ち直らせ、国際競争力を維持・強化しているために、「白書」は、我が国ものづくり産業の戦略的再構築の必要性を説いているわけですが、その解決策は、「新成長戦略」の実現と、円高下でのグローバル競争力の獲得にあるとしています。

 具体的には、①攻めの投資と雇用を通じて、競争力の源泉たる国内ものづくり基盤を維持・強化していくこと、②積極的な海外投資等によるグローバル市場の獲得と、その果実を還流させ、我が国の復興やさらなる成長に活かすこと、③電力の安定供給や法人税の引下げ、国内立地補助、経済連携締結等の施策を通じ、国際的な事業活動を円滑化しながら新成長戦略の実現に努めていくこと--などを取り上げていますが、これらの基本的な施策の他に、税制やエネルギー政策の見直し、港湾・空港・産業道路など産業インフラの整備、研究開発と企業誘致に関する政府・自治体・産業界・大学・研究機関の不断の努力などが不可欠とされます。

 以上の基本的な認識のもとに、「平成22年度ものづくり白書」による現状分析や論点の要約を参考のために以下のとおり掲載します。

 

《「白書」の主な現状分析と論点》

①我が国の製造業の動向

 製造業は、2008年秋のリーマンショックによる影響から徐々に脱してきたが、本年3月11日の東日本大震災の発生によって、とくに自動車関連産業などを中心に生産が大きく落ち込んだ。現在は回復基調にあるが、依然として円高傾向が続き、またアジアなど新興国の市場獲得をめざした海外生産の拡大によって製造業の事業環境は厳しくなっている。また、サプライチェーンの中核を担う素材・部品分野における海外移転も加速し、国内のものづくり産業における雇用機会の喪失が懸念されている。

②ものづくり産業の課題と展望

 円高、自由貿易協定や経済連携協定の整備の遅れ、レアアースの確保問題、災害によるサプライチェーンの寸断、環境制約、新興国の生産基盤の高度化などにより、我が国の国際競争力は低下する傾向にある。

 また、東日本大震災と原発事故は、製造業の生産活動に大きな影響を与えたのみならず、「高品質」「安全」という日本ブランドを揺るがしている。

 我が国の製造業の技術の海外移転・流出が発生する中で、国内拠点の高度化に対応する必要があり、今後は、強靱なサプライチェーンを構築するとともに、積極的な投資と雇用対策を通じて「ものづくり基盤」を強化して競争力を回復していかなければならない。また、具体的な施策として、効率的な研究開発を行うための企業再編、「クールジャパン」のビジネス化、海外展開で得られた経営資源の国内還元などが重要である。

③ものづくり人材の育成

 将来を担う若年技能系正社員をいかに確保し、育成していくかが大きな課題であるが、企業全体でみれば「うまくいっている」との評価である。しかし、中小企業においては、採用面、能力開発のマニュアル整備などの面で十分ではない。今後は、地域の高校生・大学生と中小企業が情報を共有し、トライアル雇用やインターシップなどマッチングに資する施策を講じたり、職業能力開発に大きな効果をもつoff-JTを推進するための職業訓練校などでの在職者訓練、訓練指導員の派遣、経費の助成施策などを推進することが重要である。

 また、東日本大震災の被災地域における復興支援のために人材育成、公共職業能力開発施設での高度で多様な職業訓練の実施、技能検定制度の充実、工業高校や中小企業等への熟練技能者の派遣による技能継承などの施策の推進が重要である。

④ものづくり基盤強化を支える教育・研究の充実

 ものづくりに係わる大学、高等専門学校、専修学校の役割・機能を高めるために、体験重視型教育、長期インターシップ、地域の産業界と連携した教育など、実践的な技術者教育を推進する。また、小・中・高校においては、ものづくり文化を醸成するために、技術・家庭科の指導内容の改善、子どもが直接技術に触れることができる展示・学習支援活動を実施する。

 ものづくりを基盤としたイノベーション創出のために、計測分析技術・機器やシミュレーション技術の開発をはかる。また、大学の研究成果の実用化のための税制上の支援、産学官連携コーディネーターによる支援強化をはかる必要がある。