政策レポート

2011年1月27日

2011年度政府予算案と税制・社会保障の改革

 2月24日に第177回通常国会が開会されました。この通常国会は、民主党政権が概算要求の段階から編成した「来年度政府予算案」と税制改革関連法案を成立させるとともに、マニフェストで掲げた諸政策を実行する関連法案の成立を目ざします。参議院が与党の過半数割れという厳しい状況のもとで、予算案・法案を成立させるには野党の協力が不可欠となっていますが、民主党としても党内が結束し、万全の国会対策を講じていかなければなりません。

 また、今国会で大きく議論されるテーマとしては、危機的な状況にある国家財政の問題と消費税引き上げ問題を含む税制改革の課題、またこれに関連した年金・医療・介護など社会保障制度をどのように改編していくのか、という課題があります。この政策論議は今後の国民生活に大きく影響するものであり、与野党を超えた国民的議論が展開されていかなくてはなりません。以下、予算案、税制改革、社会保障改革に関する考え方を述べていきます。

 

1、財政の危機的状況と予算編成のメリハリ

 来年度政府予算案は、不況による税収の大きな落ち込みという事態の中で、昨年に続き、税収(約41兆円)より国債発行額(約44兆円)が上回るという極めて異常な予算編成となりました。しかも、予算総額92兆4116億円のうち、約23%の約21兆5500億円が国債費(利払い・償還に充てられる)ということで、実際に国の政策や管理的経費に使われるのは、残りの77%の約70兆円です。これは「基礎的財政収支対象経費」と言われるものですが、このうち、社会保障関係予算が28兆7000億円、地方交付税が16兆7000億円と大きなウエイトを占めるため、その他の政策や経費で使われるものは、約25兆円にとどまります。(表1参照)

表1 2011年度予算案に見る収支の概要

歳    入

歳    出

○税収

○公債金収入

(建設国債含む)

○その他

 

   40兆9270億円

   44兆2980億円

 

  7兆1866億円

○国債費

○基礎的財政収支対象経費

内訳①社会保障

   ②地方交付税

   ③その他

  21兆5491億円 

  70兆8625億円 

     28兆7079億円

      16兆7845億円

      25兆3701億円

  計

   92兆4116億円

   計

  92兆4116億円

※「その他」の収入は、特別会計の剰余金繰り入れなど。

※プライマリーバランスとは、基礎的財政収支対象経費(歳出-国債費)を、その年の税収で賄なうことを言う。

 

 このように、予算編成上の大きな制約がある中で、民主党が選挙で掲げたマニフェストの主要政策を完全実施することは、非常に困難な状況に陥りました。

 例えば、子供手当の完全実施には約5兆5000億円、高校授業料の完全無償化には約1兆3000億円、農家の戸別所得補償制度は約1兆円、ガソリンなどの暫定税率の廃止は約2兆5000億円の予算がかかります。このマニフェスト関連の予算を確保すれば、その他の政策経費が大きく制約されることになります。そこで、来年度予算案では、マニフェスト政策に関しては、減額や延期を打ち出しました。(表2参照)

 このことについて、民主党の政策実行力やマニフェストそのものを批判する論評が多く見られますが、この問題の根幹には税収の大幅減という背景があります。我が国の経済は、2008年秋のリーマンショックからの立ち直りが予想以上に遅く、またグローバリゼーションが進む中で企業や個人が国内で大きな富を生みだし税収増に寄与するという構造が質的に変わってきたということがあります。

 マニフェストで掲げた財源案(無駄の排除や補助金の見直しなどで16兆8000億円)を含め、マニフェスト策定時における情勢分析が厳密でなかったという反省も必要ですが、一方で、経済・社会情勢が大きく変化する中で、的確で、よりベターな政策に適宜転換をしていくという政治手法も認められるべきだと考えます。

 

表2 マニフェスト完全実施の予算規模と2011年度予算案(一般会計分)

マニフェスト主要政策項目

完全実施の場合の予算規模(概算)

延期・縮小による来年度予算案     ()内は事業規模

○子ども手当

○高速道路の無料化

○暫定税率の廃止

○高校授業料無償化

○農業戸別所得補償

5兆5000億円

1兆3000億円

2兆5000億円

1兆3000億円

1兆円

2兆2000億円(2兆9000億円)

1000億円 

2000億円

4000億円

6000億円( 9000億円)

 

  さて、その予算案の内容ですが、財政状況からの大きな制約がありましたが、これまでの自公政権時代の予算編成とは大きく変わっています。その最大のものは、「成長と雇用・デフレ脱却」を重点テーマとして、これを実現する予算を政治主導で編成したことにあります。

 具体的には、省庁間の枠を超えた予算の組み替えにより、「元気な日本復活特別枠」として2兆1000億円が計上されました。

 その中身は、「新成長戦略・マニフェスト実施」のために9000億円、また、「国民生活の安定・安全、人材育成、新しい公共」の施策として1兆2000億円が計上されたことです。その主な政策項目は、

①三大都市圏環状道路整備など国土ミッシングリンクの解消 1075億円

②環境技術開発・再生医療研究等 539億円

③国際コンテナ戦略港湾のハブ機能の強化 316億円

④小学校1年生の35人学級実現 2085億円

⑤在日米軍駐留経費 1858億円

⑥新しい公共の担い手育成プログラム 980億円

--などです。

 このほか、グリーンイノベーション・ライフイノベーション、観光立国、科学振興費などにも予算が重点的に配分され、日本経済の新成長という目的意識をはっきりさせたメリハリの利いた予算案となっています。この予算を一日も早く執行することが望まれます。

 

2、税制改革のめざすもの

 政府は、昨年末、政府予算案を決定する前の12月16日の閣議において「来年度税制大綱」を決定しました

 来年度の税制改正の中心テーマは、①経済活性化・雇用確保、②所得再分配機能による格差是正、③財政的な課題を抱える社会保障制度との関連づけ--の3点です。マスコミ等の論評では、「増税・減税が入り乱れ、中長期的視点を欠いている」との批判的意見が目立ちましたが、これまでの自民党を中心とした連立政権では、このような政策的視点をもった税制改革案は見られませんでした。来年度予算案とあわせ、民主党らしい税制改革の第一歩が踏み出されることになります。以下、税制改革に関する三つの中心テーマについて考えてみます。

(1) 経済活性化・雇用確保--法人税減税の効果

 政府・与党は、経済活性化・雇用対策のための税制として、産業界や労働組合からも強い要望があった法人税の引き下げを断行することにしました。

 具体的には、国際的に最高水準にあった実効税率40.8%(国税・地方税)を35%に引き下げます。中小企業は現在18%の軽減税率をさらに15%に引き下げます。また、雇用対策として、雇用を10%以上増やした企業は、1人当たり20万円の税額控除をすることができます。

 これは、企業の収益をより多く投資に回させるとともに、外国資本の国内進出を促進と、我が国企業の海外立地をできるだけ回避させるという政策目的があります。また、法人税減税で投資を誘発し、企業の雇用拡大に結びつけさせるとともに、雇用促進税制による直接的な減税によって新規雇用を拡大するというわけです。

 法人税減税の経済的効果については様々な試算があり、その効果を疑問視する声もありますが、すでに産業界は法人税減税によって投資活動や採用活動を活発化させる方針にあり、各企業が責任を持って実行することを期待します。また、減税によって財政状況がさらに悪化するという見方もありますが、中期的には、企業収益や雇用者所得が増えることで、将来的な税収増に結び付いていくものと考えます。

(2) 所得再分配機能による格差是正

 格差問題が深刻化する中で、今回の税制改正は所得再配分機能を若干強めようとする方向を打ち出しました。具体的には、年収1500万円以上の人の給与所得控除を245万円で頭打ちして増税し、また高額報酬をもらう会社役員についても所得・退職金にかかる税を引き上げるというものです。また、相続税についても、これまで土地バブルによる課税を回避する政策がとられてきましたが、今回から膨大な額の遺産相続に関しては課税するという方針に切り替えました。

 これら増税の対象者は極めて限定されますので、大きな所得再配分効果は望めませんが、これまで自民党政権がとってきた富裕層優遇政策を変更するという意味で、社会政策として正しい判断がなされたものと考えます。

(3) 税制の社会保障制度との関連づけ

 政府・与党は、今回の税制改革議論において、税と社会保障制度を深く関連づけて改革の方向を明らかにしようとする姿勢を強めました。

 少子高齢化が一段と進展し、経済成長も低迷する中、国民の命と暮らしと雇用を守る社会保障制度は、いま大きな曲がり角に立たされています。政府が運営する医療・年金・介護・雇用の各社会保険は、給付のニーズは増え続ける一方で、いずれも深刻な財政問題や保険料負担の問題を抱え、制度の抜本的な見直しが迫られている状況です。

 これまで自民党を中心にした連立政権は、社会保障制度の改革・効率化の必要性を主張してきたものの、給付水準の見直しや保険料の引き上げなどは、国民からの反発が強いため、問題解決の先送りをしてきました。

 一昨年、政権交代が実現し、民主党は社会保障の財源となる税の問題を含め、この税と社会保障の問題に真剣な検討を加えてきました。そして昨年12月6日には、今後の国としての政策の柱となる社会保障制度の再構築と税制改革に関する「税と社会保障の抜本改革調査会」の「中間報告」をまとめました。また、政府も、「政府・与党社会保障改革検討本部」が、民主党調査会の「中間報告」も踏まえ、12月10日に「社会保障改革の推進について」を発表しました。そして、民主党は、先日「社会保障と税の抜本改革調査会」を立ち上げ、この政策課題について専門的からの意見聴取を行いながら議論を進めることとし、また菅総理大臣も、民主党の議論を踏まえながら、本年6月までに、消費税を財源とする社会保障政策の改革に関する成案を得る、と表明しました。

 現在、我が国の社会保障制度は、医療保険制度、公的年金制度、介護保険といった公的保険制度のほか、障害者対策、生活保護、失業対策などが、国・地方自治体の管理のもとに公共政策の一環として運営されています。しかし、急速に進む高齢化や不況の長期化のもとで、それぞれの制度の維持にかかる財政的負担はいまや限界に達しつつあります。一方で、介護保険、医療制度(救急医療、小児医療など)、生活保護、失業保険制度などにおいては、給付水準の引き上げをはじめ制度のさらなる制度の充実を求める声も強くなっています。

 まさに、社会保障制度に関する負担と給付のあり方について、税の面からも真剣に議論を行い国民的な合意を形成していく時期に来ていると言えます。今後の民主党の「調査会」での議論、政府部内の議論の展開を注視していく必要があります。