政策レポート

2009年9月 9日

総選挙を振り返っての所感

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 8月30日に実施された第45回総選挙は、民主党が308議席を獲得するという圧勝に終わりました。4年前の2005年9月11日に実施された総選挙では、小泉首相のもとで郵政民営化を争点にした選挙が仕掛けられ、自民党は公明党と合わせ衆議院で3分の2の議席を得る大勝利を収めました。その自民党が今回、歴史的な大敗北を喫しました。新聞社の世論調査からも、今回の選挙は民主党への支持・期待よりも自民党政治への大きな不満に由来していることが明らかになっています。この4年の間に自民党に一体何が起こったのでしょうか。

以下、このような選挙結果に至った自民党の問題点を明らかにしながら、これから政権に担う民主党にとって、今後の政権運営や選挙対策において何が重要なのか、私の所感を述べ、議論の参考にしてもらえれば幸いです。

 

1、国民の意思の変化と自民党の政権への安住

 

 今回、自民・公明が惨敗した原因の一つに、ここ3年の間に小泉改革路線が徐々に修正されてきたことが挙げられます。当初の小泉改革路線は、「郵政民営化」を旗印に、規制緩和や官業の民営化によって経済を活性化させ、とくに市場のパワーを活用して競争の中で日本経済を再生し、国民の生活を向上させるというシナリオを国民に提示しました。結果的には、格差の拡大、非正規雇用労働者の拡大という深刻な社会問題を生みだしましたが、国民の多くはこの改革路線に期待し、小泉内閣を支持し続けたわけです。

しかし、この改革路線は、安倍内閣、福田内閣、麻生内閣のもとで徐々に軌道修正され、とりわけ麻生総理大臣は「自分は郵政民営化にはそもそも反対であった」と公の場で表明するなど、小泉改革路線そのものが否定されるに至りました。そして、小泉改革の負の遺産のみが残され、あわせて国民の多くは、古い政治の復活、利権政治や官僚主導の政治の復活を感じ取りました。こうして、自民党による政治への不信感は増長し、今回の選挙において、自民党政治を否定する国民の投票行動につながったものだと思います。

 これまでの国政選挙では、野党側が政権交代を訴えても、国民の多くは政権交代によるリスクに危惧しました。しかし今回の選挙では、政権交代のリスクよりも現状維持のリスクが大きいとの判断がなされたようです。それほど自民党による政治への不信や不安は大きかったと言えます。残念ながら、自民党の指導層は政権与党の立場に安住し、この国民の意識の変化を読み取ることができなかったと思います。

 政権党となる民主党も、常に民意を読み取り、緊張感をもって政権運営にあたっていくことが求められます。

 

2、自民党の選挙戦術の誤り

 

(1)「責任政党論」の矛盾

 自民党の惨敗の原因は、その選挙戦術の誤りや“まずさ”にもありました。例えば、麻生総理は、今回の総選挙が政権交代をめぐる選挙になった時点から、「責任ある政治を行える政党はどこだ」と、責任政党としての自民党の実績を強調しました。しかし国民は、その前の政権が2代にわたり任期途中で政権を放り出した無責任さと、その後の総理総裁を国民に信を問うことなく仲間内で決めたという国民不在の政権運営を決して忘れていません。そのような自民党が、いまさら「責任ある政治」を持ち出しても、多くの支持を得られるはずはありません。

 

(2)ネガティブ・キャンペーンの失敗

 自民党・公明党は、民主党のマニフェストに対し、これを批判・中傷するだけの対応に終始するという間違いも犯しました。景気が低迷し、社会が閉塞状況にある中で、政権与党が野党のマニフェストを批判し、今後の日本をどのように変えていくのかという自ら政策を具体的に打ち出さなかったことは致命的です。

政権公約は、一般企業で言えば「商品」にあたります。良い商品をつくり、消費者に売り込む営業や宣伝を展開しなければならない時に、ライバル会社の商品の欠点の宣伝だけでは勝負になりません。

一方、民主党は、生活の視点、例えば後期高齢者医療制度の廃止、消えた年金問題の解決、子ども手当、高速道路の無料化など、多様な商品ラインナップを打ち出しました。恐らく、多くの国民はこれが全て実現するとは思っていないでしょう。しかし、国民は政治家が主導する新しい政治のもとで新しい時代の到来を予感し、たとえ実現困難に見えるメニューであっても、そのメニューの実現に期待したい、という気持ちがあったと思います。

ネガティブ・キャンペーンは、「焦っていること」や「劣勢立たされていること」を印象づけるだけで、選挙戦術としては決して有効なものではありません。とくに日本の精神風土からすれば、自分のことを棚に上げて相手を批判する行為は卑怯とする見方が強いので、なおさらです。

このネガティブ・キャンペーンは、与党の一員である公明党においても見られました。本来、庶民の視点に立ち生活重視の政策を訴えてきた公明党も、民主党幹部の政治資金問題への責任追及という一種のネガティブ・キャンペーンを展開しましたが、やはり効果はなかったと言えます。

来年の参議院選挙においても、民主党は政権政党として堂々と政策を提示し、安易なネガティブ・キャンペーンに走らないことが重要だと考えます。

 

(3)党首選挙の勘違いと解散のタイミングの問題

党首選挙を意識し過ぎたことも、自民党の敗因の一つです。

前回の参議院選挙においても政権選択選挙は誰が総理大臣としてふさわしいのかという党首選挙のイメージが前面に出されました。しかし、党首のイメージ選挙は、党首の国民的人気が落ちたり、党首の失言などが重なると大ダメージを受けることになります。今回の選挙結果からすると、麻生総理の国民的人気は思ったより低かったわけですが、これに自民党の関係者は気づかずに、党首を前面に出したイメージ選挙を貫いたのです。

選挙の顔としての党首の役割は大きいものがありますが、同時に、党首のイメージ選挙には隠れたリスクもあるということが明らかになったのです。民主党も過去の代表選挙において、メディアによる人気調査を根拠にして代表を選ぼうとする声もありましたが、このような調査に安易に依存することは避けるべきでしょう。党の代表は、あくまでも党全体の意思が結集する形で選ばれ、支えていかなければならないと考えます。

さらに、麻生総理大臣による解散のタイミングも裏目に出ました。麻生総理は、野党の解散要求に反発して、ずるずると解散を先延ばし、結局、任期満了選挙に近い総選挙にしました。どうみても解散のタイミングを誤ったとしか言いようがありません。麻生総理としては、金融危機による不況から脱し、景気回復に実績を上げれば選挙に勝てるという読みがあったと思います。また、解散を引き延ばせば、民主党など野党は選挙資金の確保に行き詰まると読んだようです。しかし、景気回復の足取りは遅々とし、一方で民主党の新人の候補者にとっては、解散先延ばしは知名度を上げていくチャンスになりました。

民主党政権も、これから解散を迫られる場面が生じることがあるかも知れませんが、解散のタイミングは選挙結果を大きく左右することを肝に銘じなければなりません。

 

3、社会・経済情勢の認識の問題

 

 今回の選挙で学ぶべきこととの一つは、社会経済の変化と時代精神の変化の潮流を見逃してはならない、ということです。

ここ20年間、我が国は経済の低成長が続き、時にはマイナス成長を経験し、また経済のグローバリゼーションのもとで労働市場をはじめ様々な分野で構造的な改革が迫られました。このような社会経済の閉塞状況から、世の中の変革を求める潮流が大きくなっていきました。そして、その変革意識は政治の世界にまで及んでいったのです。

民主党は10年前の結党当初から政権交代を言い続け、そのための政策のメニューを示したり、選挙に勝利するために個々の国政選挙や地方選挙に全力で対応し、コツコツとした努力を重ねてきました。自民党からすれば無駄な努力に見えたでしょうが、まず2年前の参議院選挙で花開いたように、民主党の一貫した姿勢は徐々に国民から評価され、そして今回の総選挙の大勝利を導いたわけです。

 一方、自民党は、この変革を求める流れを軽視したとしか考えられません。観念的には政権交代はあり得ると分かっていても、実際に現実問題として民主党と競争するという対応を戦略的に打ち出すことができなかったのです。

権力の座に安住することは、状況の変化を見落とし、戦略的思考を停止させるという怖さを孕んでいます。今回の選挙は、政治関係者にこのことを見せつけました。

 

4、全体としての感想

 

 選挙における民主党の雪なだれ的勝利は、政権交代を求める国民の伏流水的な意識が、一挙に表面にわき上がってきたようなものです。国民の良識的判断を信じて、一貫した政策理念をもってこれまでの選挙に臨んできた民主党に勝利がもたらされ、一方、その流れを見落とし、過去の成功経験のみで選挙に対応しようとした自民党に勝利が遠のいたことは当然の結果であったと思います。

 今後は、民主党は「政権交代」から「政権安定」に全力を尽くさなければなりません。そのためには、国民の政治意識の変化を正面から受け止め、真に「民が主となる政治」を実現していかなければなりません。

孔子は、「民は君子をして民に由らしむべく、君子をして民を知らしむべからず」と言いました。民衆は、君子(政治家)に民衆に由来する政治を自らの言葉に表現して知らせることはできないので、政治家は民衆の状況を注意深く観察して民衆に由来する政治(仁政)を行うべきであるということです。しかし、我が国においては、政治は政治家を任せるのではなく、自分たちの意思を言葉と行動をもって政治家に伝えて実行してもらう、という政治に変わろうとしているのです。そこには、これまでになかった政治構造の大転換がもたらされようとしています。この大きな流れを具体的な政治運営や政策に反映していくためには、政権の長期的な維持が不可欠です。

国民の皆さんの主体的な政治参加によって、民主党と中心とする政権の発展を心より望むものです。と同時に、自民党および自公政権の失政の本質を解明し、「他山の石」とすべきことを申し上げ、筆を置きます。

 

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