2009年11月28日
科学技術関係予算の事業仕分けの問題と課題
1、予算編成と事業仕分けの意義
政府の行政刷新会議は、11月9日から、ワーキング・グループによる事業仕分けの作業を開始し、11月25日に作業を終了しました。ワーキング・グループは、11月中に「仕分け評価結果」を行政刷新会議に報告し、了承を得る予定です。その後のスケジュールとしては、この仕分け結果を参考に、内閣と財政当局が予算編成作業に入り、12月中に来年度政府予算案を編成し、来年の通常国会での予算案審議を経て、3月中の成立を目指すということになっています。
さて、この事業仕分けですが、連日マスコミが作業の詳細を報道し、国民の関心も高まっています。これまで、自民党を中心とした政権では、夏の各省庁の概算要求から年末の政府予算案編成までが全くのブラック・ボックスになっていました。国民や国会議員からは見えないところで、各省庁の予算担当者と財務省の主計官、そして自民党の有力族議員の間だけで調整されてきたわけです。今回の事業仕分けは、この見えなかった予算編成プロセスの一部を明らかにし、政治家主導、国民主導のもとで予算編成作業をしていこうというものです。
一方、現在までの作業で、「説明・検討・検証の時間が短い」、「説明側(省庁)に反証の機会が与えられていない」、「判断のための明確な基準がない」、「国家戦略的な予算と一般の予算が同一レベルで扱われている」などの批判も出ています。
以下、とくに科学技術関係の予算の打切りや縮小という仕分け結果を中心に問題点と課題を明らかにしたいと思います。
2、スーパーコンピューター開発予算凍結のショック
今回の事業仕分けにおいて、主として文部科学省が所管する科学技術関係予算の多くの項目が縮小・見直し・廃止という結果になりました。具体的には、次のような結果が出されました。
○次世代スーパーコンピューター技術開発(理化学研究所)※見送りに限りなく近い縮減
○大型放射光施設(理化学研究所) ※1/3~1/2縮減
○植物科学研究事業(理化学研究所) ※1/3程度縮減
○バイオリソース事業(理化学研究所) ※1/3程度縮減
○深海地球ドリリング計画推進(海洋研究開発機構) ※1割~2割縮減
○地球内部ダイナミクス研究(海洋研究開発機構) ※見送り又は半額縮減
○競争的資金--先端研究(科学技術振興機構など) ※縮減
○競争的資金--若手研究者育成 ※縮減
○競争的資金--外国人研究者招聘 ※縮減
○競争的資金--その他特定分野(原子力システム研究開発、先端計測分析技術・機器の開発) ※1割~2割縮減
○競争的資金--ライフサイエンス分野(革新的タンパク質・細胞解析研究イニシアティブなど) ※2割以上縮減
○競争的資金--女性研究者支援 ※1/3程度縮減
○地域科学振興・産学官連携(地域イノベーション創出支援など)※廃止
○理科支援員等配置事業 ※廃止
○科学未来館への運営委託費 ※縮減
○GXロケットの開発 ※見送り
○宇宙ステーション補給機 ※1割縮減
○衛星打ち上げ(平成24年度以降) ※1割縮減
○高レベル放射性廃棄物処分技術開発 ※見直し
この科学技術に関する予算項目の仕分け結果について、研究開発にあたっている科学者・研究者・産業界などから、技術立国としての我が国の行く末を危惧する声が高まっています。とくに、科学技術研究の国家戦略の一つとして進められてきた「スーパーコンピューターの開発費」の凍結は、多くの関係者に大きなショックを与えました。具体的な仕分け結果は、「計画の凍結、ということで、来年度の予算は、見送りに限りなく近い縮減との結論とする」。そして、その理由として、「①本年5月、協同開発者三社のうち二社が撤退したことにより、ベクトル型とスカラー型の併用から、スカラー型単独へと計画の基本的な部分で変更があった。したがって、一度、立ち止まって、見直すべき」「②十分な説得力のない"世界一"という目的だけで、多額の投資をすべきではない。"世界一 "一番乗りと財政状況とのバランスを考えるべき」の二つが挙げられました。
しかし、専門家は、「進展のはやいスーパーコンピューターの一時停止は撤退に等しい」、「スパコンは半導体や自動車の設計、新薬の開発など、幅広い分野で利用され、我が国の国際競争力を維持・向上させるための研究基盤である」と、開発予算の凍結を批判しています。
このほか、科学技術の研究開発・振興にかかわる予算の廃止、見送り、縮減という事業仕分け結果に対して、これらの予算の復活と科学技術研究開発の推進を訴える多くの意見が政府に寄せられています。すでに、文部科学省のホームページには1万通を越える意見メールが届いているとのことです。また、11月24日には、主要9大学の学長による声明の発表、25日にはノーベル賞などの受賞者5人が科学技術による国際協力の重要性や若手研究者の育成強化、科学技術立国にふさわしい研究開発事業へのさらなる支援を訴え、翌26日には鳩山首相に面談し、そのことを直接要請しました。
3、国家戦略としての科学技術研究の推進
我が国の研究開発投資は民間中心に行われてきましたが、近年、政府の予算も増え続け、本年度の予算総額は約3兆5000億円にも上っています。この公的資金の対GDP比は0.7%で、先進国の中では低位にありますが、一方で、①各省庁にまたがった重複的な研究が多くあること、②研究関係の独立行政法人や大学が研究費獲得競争に入れ込むあまり研究プロセスと研究結果の検証が十分でないこと、③専門的な研究に対して外部からの監視が働きにくく無駄を生みやすくなっていること、④実際に必要とされない高額機器が購入されたり、研究費の不正受給も頻発していること--等、これまでいくつかの問題点も指摘されてきました。
今回の事業仕分けは、これらの問題点を政治家目線・市民目線から問い質したものとして一定の評価はできます。しかし、科学技術開発や基礎研究は成果を出すまでに一定の期間が必要となりますから、単純に、財政の効率的運用の視点や、費用対効果の視点でその研究事業を評価するやり方はなじみません。
「事業仕分け」そのものの問題点や課題については、すでに本ホームページの「政策レポート」(5月15日)で、①官庁説明資料の適正化、②作業結果についての実効性の問題、③社会保障関係や研究開発関係の判断基準の問題--などを指摘しましたが、野党時代に民主党が行った事業仕分けの課題が、今回、与党としての作業においても残されることになったわけです。
現在、民主党の文教科学委員会のメンバーは、大臣・副大臣あてに、科学技術関係予算の着実な確保を求める声を強めています。私も、様々な機会で大臣・副大臣・政務官にこのことを強く訴えてきてまいりました。
これに関連し、中川文部科学副大臣は、「先端科学技術調査会」を設置して、衆参の文部(文教)科学委員会に属する与党議員に、先端科学の知識を深めてほしいと調査会への参加を呼びかけました。そして、11月25日に第1回目の会合が開かれ、2001年にノーベル化学賞を受賞された野依良治氏(理化学研究所理事長)から、「科学技術はわが国の生命線」をテーマに講演を受けました。野依氏は、我が国が置かれた科学技術研究開発の現状と政府としての戦略のあり方について考え方を述べられ、とくに、OECD諸国の中でも、我が国の科学技術開発の予算の伸びが最も低いこと、アメリカなどでドクターをとる若手研究者少ないことなど、将来への不安を語られました。また事業仕分けでスーパーコンピューター開発計画が「凍結」と判定されたことに対し、「スーパーコンピューターは科学技術開発の頭脳である。科学技術は国際水準にあればいいのではなく、世界水準をしのぐ科学技術なくしてわが国の科学技術はない。世界一である必要なないという議論は危機意識がない」と大きな懸念を示されました。
また、野依理事長は、限られた予算の中で科学技術関係予算を確保するのが困難であれば、「科学技術教育目的税の創設が必要ではないか」との提言もされましたが、私からは、ノーベル賞受賞者を中心にした高名な学識者・研究者の方々が、科学技術教育予算確保のための目的税の創設に向けて広くアピールしてもらいたいと期待を示しました。
事業仕分けは、新政権の試金石となる予算編成作業の重要なステップの一つです。この結果は当然尊重されなければなりませんが、スーパーコンピューターの開発予算の凍結問題は、多くの国民が科学技術開発の重要性を再認識する契機ともなりました。最終的な判断を下す国家戦略・経済財政・科学技術担当の菅大臣も、現時点では、予算復活の意向を示しています。来年度予算案編成まで多くの時間がありませんが、私自身も、関係予算の獲得を目指して全力を尽くしていきたいと思います。
最後に強調しておきたいことは、我が国の産業振興に関わる国会議員、労働組合、そして科学者や技術者が意思を統一して、科学技術の重要さ、基礎研究の大切さ、そしてその開発コストや教育コストに国が責任をもつべきことを分かりやすく国民の皆さんに説明していくことが重要だということです。
