2010年8月20日
急激な円高への対策をいかに講じるか
現在、円とドルの為替レートは80円台半ばという異常な円高状態が続いています。
円高は、とくに輸出産業の企業の収益を圧迫し、一方で輸入物価をさらに下げてデフレ基調を増幅します。さらに、為替リスクを回避するための海外での現地生産が促進され、国内の製造業の空洞化を誘発します。円高は、一定期間、円高差益が内需に寄与しますが、物価の低下は、現在のデフレ状況に拍車をかけることにもなります。現在、我が国の経済は輸出主導で景気の回復をはかりつつありますが、今日の極端な円高は、日本経済の回復を大きく遅らせ、我が国の「ものづくり」産業に大きな打撃を与えることになります。
このような状況のもとで、菅総理大臣は、円高対策で日銀と連携する姿勢を見せています。
行き過ぎた円高を是正する政策手段はいくつかありますが、これまで、有効とされてきたものは、国際的協調のもとでの市場介入です。1990年代のバブル崩壊後の日本経済の大不況期には、欧米諸国は、為替介入などによる円高対策を容認し、協力体制をとってきました。この前例から、今日、政府・日銀は積極的に為替介入すべきだという声が高まっているのです。
しかし、今日の国際的環境は大きく違っています。2008年秋の世界金融危機の後遺症に苦しむ米欧諸国は、自国通貨安による景気回復を志向し、いわば自国通貨切り下げ競争が起きているのです。このような各国の意図が働く中で、日本の円に配慮した国際的協調体制は取ってもらえそうにありません。
財界や政府部内では、「日本単独でも市場介入すべきである」という意見もありますが、2009年4月に開催された20カ国・地域(G20)首脳会議は共同声明に「通貨の競争的な切り下げを回避する」としており、G20の中心メンバーである日本は、容易には身動きできません。
さらに、為替介入の実効性を考えると、政府・日銀が取り得る政策手段も極めて限られていると考えられています。
金融市場から見れば、今回の円高は、「ドル安」の反映、つまりアメリカにおける長期金利の低下やアメリカ経済の先行き不安が原因しているのです。国際マネーは金利の高い国に向けて流れていきますが、アメリカの長期金利の水準が一段と低下して、日本の水準に近づく中で、景気回復基調にある日本の円に買いが集中しているのです。
円高対策としては、外国為替市場における「円売り・ドル買い介入」という直接手段とともに、金利の引き下げ策が有効手段の一つとしてあります。しかし、我が国の長期金利が1%を割るという超低金利になっており、日本政府と日銀としても、これ以上の金利引き下げ策を取ることは難しくなっています。一方、アメリカの長期金利は2.5%程度でなお低下する余地がありますから、日本が追加的な金融緩和策を行なっても、アメリカの金融政策次第では、円高対策への効果は薄れていくことになります。
輸出比率の高い「ものづくり」産業のみならず、景気の回復を渇望する国民にとっても、日本政府と日銀が円高対策にどのような政策手段を用いるのか、今後、注目したいところです。
かつては、フロー制度のもとで、輸出入の動向や経済パフォーマンスによって為替レートが形成されていきましたが、現在は、国際的な投機マネーによる影響とともに、各国政府が輸出促進のために意図的に通貨を切り下げる政策、あるいは中国のように元の切り上げ圧力に徹底的に抵抗していくという流れの中で、経済の実態にそぐわない為替レートが形成されているのです。そして、日本のみがそのしわ寄せを強いられているのが現状です。
このような流れを断ち切るためには、投機マネーの動きの徹底した監視、財政破綻国への協調的支援、さらには、先進工業国の財政・金融政策における国際協調体制を確立させることが重要です。政府と日銀は、「日本経済を危機に陥れる円高を必ずや是正する」という強い意志を共有し、これらの国際的取り組みに大いなるイニシアティブを発揮していくべきだと考えます。
