政策レポート

2006年1月18日

中国経済の発展と我が国への影響について

中国経済の発展に関する報道が頻繁になされています。また、直近では中国の高度成長の出発点となる1992年の鄧小平の南巡講話のルートを北朝鮮の金正日主席が辿ったというニュースもありました。中国経済と我が国経済の相互依存度はますます高まっていく中、我が国の産業の行方やアジア外交のあり方を考える上で、中国経済の実態と今後の展開を把握することが重要です。最近は、反中ムードを背景に中国経済の問題点ばかり取り上げ成長限界論や体制崩壊論を予想するような論調が多く見られますが、中国経済は市場化が急速に進展し、明らかに資本主義経済に変貌してさらなる成長を遂げようとしています。そして、「市場」のパワーが社会体制や文化までも大きく変えようとしています。
今回、政策秘書の大谷達也が昨年末に中国を訪問し、多くのエコノミストやシンクタンク・スタッフからヒヤリングし、先端産業の現場を視察した体験をもとに「中国経済の発展と我が国への影響」として簡単なレポートにまとめました。

1、中国の経済の発展をどう観るか

年明け早々、中国経済に関し大きなニュースがいくつか流れました。一つは、1月9日に中国政府が発表した2003年と2004年の経済成長率の上方修正と消費者物価上昇率の安定というニュースです。成長率はサービス業の伸びにより、2003年の9.5%成長を10.0%に、また2004年の9.5%成長を10.1%と2ケタ成長に修正したというものです。併せて、消費者物価も昨年では1%台で推移し、インフレ懸念が払拭されたという状況のもとで、中国政府は今後も高度成長路線を敷いていくことが予想されています。二つ目は、2005年の中国の貿易黒字が1,000億ドルを突破し、日本、ドイツを抜いて世界最大の貿易黒字国になったというニュースです。これに関連し1月15日には、中国の外貨準備高が8,189億ドルに達し香港分をあわせると世界1位になったこと。また1月13日には、2005年における中国の自動車販売台数は輸入車の販売台数を加えると591万8千台となり米国に次ぐ世界第2位に浮上したというニュースも流れました。(注1) もちろん、それぞれの数字の背景には様々な問題点もあるわけですが、とにかく中国経済の急激な発展を象徴するかのようなものばかりです。
注1)このニュースは1月18日に572万台に訂正され、日本の585万台を下回り世界第3位であったようです。しかし、2006年度では日本を上回るのは確実とみられています。

我が国としても、中国との経済関係がますます拡大している中、とりわけ貿易、直接投資、技術移転などの面で今後、我が国の製造業が受ける影響も大きくなっていくことが予想され、私たちとしても中国経済の現状と今後の展開について的確に把握していく必要があります。以下、最近の中国情報や政策決定に影響力をもつ中国人の経済学者やシンクタンク・スタッフのヒヤリングをもとに、日中関係のあり方含め、若干のコメントをいたします。

2、「第11次5カ年規画」に見る政策の転換――調和の追求

中国政府は、本年3月に全国人民代表大会(日本の国会にあたる)を開催して、ここで2006年から2010年までの「第11次5カ年規画(旧計画)」を決定します。また、本年の経済成長の目標については、すでにその下限を8%に設定しています。
ここ数年にわたり、「土地・金融バブルの崩壊」「エネルギーの制約」「環境・労務コストの上昇」「様々な格差拡大による社会の崩壊」などを理由に中国経済の「成長限界説」が中国研究者を中心に主張されてきましたが、現実の中国経済はこれらの予想に反し高い経済成長を続けています。
中国経済は、むしろ発展の過程で生じる様々な矛盾を克服し、そのことによってまた新たな発展が誘発されるという成長プロセスに突入していると言えるでしょう。この背景には、外国からの資本導入や技術移転が一段と進み、これにより生産力が強化されマーケットも急激に発展していることがあります。とくに市場においては、労働市場も含め効率的な競争原理が働きはじめていること、また、社会の指導層の柔軟且つ“したたかな”政策遂行も経済成長を支えている要因ではないかと思います。
この政治指導者、行政官僚、経営者、そして政策決定にかかわる学識者の意識改革が着実に進んでいることは極めて重要なポイントだと思いますが、このことは、本年3月に決定される「第11次5カ年規画」の策定過程とその内容に象徴的に見ることができます。新しい「5カ年規画」は、現時点では、昨年10月の共産党中央委員会全体会議で党中央から示された「提案」というものですが、我が国ではマスコミの扱いも小さいため、その内容と特徴を簡潔に紹介します。
まず最大の特徴は、これまでの社会主義的「計画経済」から「規画」という表現に変え、市場を重視した経済政策への転換をより鮮明にしているところです。そして、今回の経済計画案の策定が共産党中央の独占的作業ではなく、明らかに大学やシンクタンクの研究者などが広くかかわっているということです。そのためか、経済・社会の問題点や矛盾を遠慮なしに列挙し、そしてこれまでの政策を総括した上で改革のグランドデザインを提示するという構成にしています。
ここで指摘されている中国経済・社会の問題点や矛盾点は、「生産性の低さ」「アンバランスな経済発展」「自主的創造的な技術開発の努力不足」「経済発展が市民生活の向上に連動しない状況」「農業・農村・農民問題(三農問題)の深刻化」「失業増大など雇用問題の発生」「貧富の格差の拡大」などです。
これに対し、「提案」では、今後5年間にわたり「人を主体とした立場から社会全体の持続的な均衡発展を目指す(「科学的発展観」という用語を使用)」という考えのもとに、①三農問題の解決による都市と農村の発展の調和、②後発地域の支援による地域発展の調和、③雇用・社会保障・教育など公共サービスの充実による経済と社会の発展の調和、④資源節約と自然環境の保全による人と自然との調和、⑤開放政策を推進しながら国内の市場の発展をはかる国内と対外との調和を制度の拡充――という「五つの調和」を実現することを強調しています。
そして5年後の数値目標として、「1人当たりGDPを2000年の倍にする」、「エネルギー原単位を20%引き下げる」、「対外開放政策の推進により国際収支をほぼ均衡させる」などを掲げています。(別表参照)
鄧小平が「改革開放政策」の一環として沿岸地域の産業振興に力を入れはじめた1992年以降、中国では「経済成長至上主義」が支配原理となり、その結果、1990年から今日までの15年間にGDPは約4倍に膨張しました。しかし他方で、中国社会には様々な歪みや格差が生じ、さらに環境問題やエネルギー問題も一段と深刻化してきました。エネルギー不足によって石炭への需要が急増する中、安全対策無視した炭坑での落盤事故や爆発事故が頻発しているという事態は、社会的歪みの象徴的な出来事だと言えます。  
環境汚染とエネルギーの大量消費が続けば持続可能な成長は望めない、あるいはこのままでは社会が不安定化する、という認識が一段と強まる中、中国の指導層は、ここにきて政策理念の大きな転換をはかろうとしています。今後、「バランスの回復」、あるいは「人間を主体とする社会」というスローガンが具体的な政策の遂行で実現していけば、まさに中国経済は質量相伴った新たな発展段階に入っていくものと考えられます。これより5年間、政治指導者、経営者達の手腕が大きく問われることになりますが、私たちとしても今後の成り行きを注意深く見守っていく必要があると考えます。

(別表) 第11次5カ年規画期の経済社会発展の主要目標

1.構造改善、効益化、消耗抑制を土台に、1人あたり国内総生産(GDP)を2010年までに2000年の倍にする。

2.資源利用効率を大幅に引き上げ、単位GDPあたりのエネルギー消費を、「第10次五カ年計画」終了時より20%前後引き下げる。

3.自社の知的財産権と有名ブランド、比較的強い国際競争力を持つ優れた企業を育成する。

4.社会主義市場経済体制を比較的整った状態にし、開放型経済を新たなレベルに引き上げ、国際収支をほぼ均衡させる。

5.9年制義務教育を普及させ、確実なものにする。都市部の雇用増加を維持し、社会保障システムを比較的整った状態にし、貧困人口を引き続き減少させる。

6.都市・農村住民の所得水準と生活の質を幅広い範囲で向上させ、物価水準をほぼ安定させる。住居・交通・教育・文化・衛生・環境などに関する情況を大きく改善する。

7.民主法制と精神文明の構築において新たな進展を目指す。社会治安と安全生産環境をさらに改善し、調和社会の構築で新たな進歩を目指す。

3、我が国産業の対中戦略

日本と中国は、輸出入量、直接投資額、技術交流・人的交流などのデータを見れば明らかなように、その経済関係はますます緊密になりつつあります。中国経済がさらに発展していけば、ここ数年の流れと同様に、日本経済も中国経済に連動して大きくプラスに動いていくことになります。また前述の新しい「5カ年規画」が実効性をもって遂行されれば、中国の市場はさらに一段と大きくなり、我が国としても第三次産業を含め、様々な分野で中国市場でのビジネスチャンスが生まれることになります。
しかし一方で、マイナスの影響を受ける面も当然出てくることになります。すでに、中国経済の高度成長が続く中、エネルギーの大量消費によって国際的な資源問題に我が国も巻き込まれようとしていますし、我が国の知的財産の侵害もあちこちで起きています。また大気汚染と海洋汚染による我が国への影響も顕著になりつつあります。 
そこで、中国経済が発展し、市場が成熟していった場合、我が国の勤労者の雇用を守る立場、あるいは我が国の製造業の復権という視点からどのような問題点が出てくるかを考えてみたいと思います。
まず、中国経済の高度成長が続けば、製品・部品の輸出増や直接投資による収益の増大によって我が国の企業が潤うことになりますが、他方で、中国が独自の技術力や商品開発力を高めていくと、これまで優位に立っていた分野での我が国産業の競争力が弱まり、それによって特定の業種が窮地に追い込まれていくことが予想されます。
ここ数年、欧米や日本に留学した優秀な技術者や研究者がぞくぞくと帰国し、また北京の清華大学や北京大学をはじめとするエリート養成大学が研究開発のための人材育成に一段と力を入れている現状をみると、この技術競争、開発競争における中国の脅威が大きく迫っているように思えます。もちろん、しばらくの間は海外からの技術導入をベースにした、いわゆる「モジュール型生産方式」による経済発展が続くでしょうが、我が国としては、なるべく早い時期に我が国の産業と中国の産業が共栄共存できる環境整備をはかるとともに、自らもさらに日本独自の技術開発力を高め、生産コストを下げ、知的財産を保全する措置を取りながら製造業の競争力を高めていく必要があると考えます。
近年、中国に進出した製造業の一部が日本に戻ってくるという回帰現象も出始めています。その背景には徐々に高まりつつある「中国リスク」への意識もあるでしょうが、現在のところ、消費地生産のメリットや消費地での研究開発の有効性を生かせる業種などに限られているように思えます。基本的には、無限の可能性を秘めた中国市場でのビジネス展開と人件費コストを最小化できる中国への直接投資は今後とも拡大していくでしょう。したがって我が国としても、製造業の国際競争力を維持・向上させていくためには、膨張を続ける中国市場をターゲットにした収益力ある事業を確保するとともに、研究開発から販売に至るまでの中国企業との協業体制、あるいは戦略的な分業体制を築いていくことが重要ではないかと思います。同時に、そういった経営戦略のもとで、我が国の労働組合としても、研究開発分野の国内拠点づくりの強化と国内生産が可能な分野での中国・東南アジアから回帰を求めていくという主張が整合性をもってくるのではないかと考えます。

4、今後の日中関係のあり方

欧米の企業が異常なスピードで中国への投資を拡大させ、中国との相互依存体制を一段と強めている中で、相対的に中国経済における日本のポジションが低下しつつあります。この背景には、「政冷経熱」といわれるように外交関係の行き詰まりや「チャイナ・リスク」の意識の高まりがあると思われます。確かに、中国元の切り上げ圧力、国内的な格差拡大による社会不安の増大、国家財政の問題や金融システムの欠陥などが論じられ、また日本が1970年代初頭に経験したように、いずれは欧米へのキャッチアップによる高度成長の終焉という「成長屈折」を迎えるということになると、経済成長限界論や体制崩壊論も自ずと真実味を帯びてきます。
しかし、中国市場の最前線で活躍する我が国のビジネスマンの認識は全く違っています。欧米の企業と同様、その市場の成長と魅力を見極めており、リスク分散についても一部工場のタイ移転などの手を打ちつつあります。
年が明けて、財界首脳が小泉首相の対中国政策をじわじわと批判しはじめました。もちろん、小泉首相の政治スタイルからすると、その政策や考え方を変えることはあり得ませんから、現時点では、秋の自民党総裁選挙までに中国の指導層がどこまで我慢できるか、という精神論の問題になっています。
ともあれ、中国経済は多くの問題を抱えながらも高度成長を続け、国際経済におけるポジションも急激に高め、またそれによってアジア全体における政治力や外交的交渉力も高めているという実態をきちんと認識していくことが重要です。
経済力を背景に軍事力の強化・近代化が進められ、このことも日中関係を一段と複雑化させている面がありますが、アジアにおける二つの大国がどのように友好関係を築き、ともに安定的な経済発展していくかは大きな政治課題の一つであると言えます。本年は、このことも念頭におきながら、加藤議員の産業政策、労働政策、環境政策の推進をサポートしていきます。