政策レポート

2009年5月15日

行政の事業仕分けの意義と課題

1、民主党として全省庁対象に事業仕分け

民主党は、次の総選挙にむけたマニフェストづくりを進めていますが、その中心的な政策項目の一つが、212兆円にのぼる国の一般会計と特別会計の予算を根本的に組み替えることです。そのため民主党として、国が行っている様々な事業を個別にチェックし、本当に必要な事業なのかどうか、あるいは地方自治体や民間などに委ねたほうが効率的なのではないのか、など事業を区分し、無駄な予算を洗い出していく作業に入ることにしました。

このような国の事業や地方公共団体の事業を評価しながら仕分けし、財政支出の効率化をはかろうという作業は、これまで政策シンクタンクの「構想日本(代表:加藤秀樹・慶応大学教授)」が取り組んできました。今回、民主党はこのシンクタンクの力を借りながら、政策調査会の各部門がそれぞれの担当する全省庁を対象に事業仕分けの作業を行います。

民主党としては、まず、この作業の手はじめとして、3月25日に、「構想日本」の加藤代表を招き、「事業仕分け」の勉強会を開催しました。加藤代表は、「構想日本」が2002年から行ってきた34の自治体での事業仕分けの実績や、すでに自民党の「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」(河野太郎チーム)が4省を対象に実施した「政策棚卸し」(事業仕分け)の事例を取り上げ、事業仕分けの意義、方法、成果などを説明されました。とくに民主党が行おうとしている全省庁を対象とする事業仕分けは初の試みであり、省庁予算の実際の使われ方が明確となることにより、ムダな財政予算が洗い出され必要な予算に回されることを期待したいと語られました。

 

2、事業仕分けの意義と手法

事業仕分けをしなければならない背景は、国・地方の行政では、一度実施された事業やそれに付けられた予算は、継続する事由がなくなっても形を変えて存続したり、さらに新しいニーズがあるからと事業を継ぎ足して膨張していくという傾向があります。このような行政における事業の肥大化傾向により、結局は、国民や住民は税や利用料金などの負担増を強いられていくのです。そこで、適時、行政に対しては、事業のスクラップ・アンド・ビルドを行うよう議会や市民が要請しなければならないのです。いわゆる行政改革の一貫として、事業の洗い直し、評価が必要なのです。「構想日本」が自治体や4省庁で実施した事業仕分けでは、無駄な事業の見直しにより、予算総額の10数パーセントが浮いてくるというデータがあります。まさに、事業仕分けは、行政改革の有力な手法、いわゆる国・地方の埋もれた財源を掘り当てる有力な武器となっているのです。

この国の事業仕分けについては、まず各省庁は具体的にどのような事業や予算項目をもっているのかを把握する必要があります。民主党は、「構想日本」が開発した「事業説明シート」にもとづき、衆議院の調査室を通じ、各省庁に個別の事業についての概要・目的・根拠法令・予算額を説明する資料を提出させました。この第1段階の作業にもとづき、現在、民主党政策調査会の各部門が担当者を決め、それぞれの省庁の事業について、担当部局からのヒヤリングを含め個別にチェック・精査をする作業を進めています。

民主党としては、これらの作業の中で、①事業継続の意義が薄れているもの、②事業目的にそった効果が期待できないもの、③各省庁の天下り団体を養うための委託業務・補助金業務、④事業内容が不明なもの――など事業そのものの必要性をチェックするほか、天下り団体や民間への委託が随意契約になっていたり、団体が利益をため込んでいるようなケースもチェックします。

これらの問題事業をピックアップし、とくに問題がありそうなものさらに抽出し、個別に公開の場で事業仕分けをしていきます。この事業仕分けは、事業仕分けの作業をしてきた担当議員・政策調査会スタッフが事業を所管する各省庁の担当者から最終的な説明を受けながら、①事業廃止、②業務改善、③地方・民間実施――などの最終判定を行います。

担当する総務部門におきましては、5月14日にこの最終判定の作業を行いました。この日は、事前に精査した総務省所管の予算項目・政策のうち、絞り込んだ5項目について最終判定を行いました。(写真)

民主党としては、これら各省庁別に判定された問題事業を集約し、5月中に全体の事業仕分け結果をまとめてこれを公表することにしています。どのくらいの無駄な事業予算が摘出されるか、大きな期待がかかっています。

 

3、事業仕分けの課題

(1)官庁説明資料の適正化

これまで実施されてきた行政改革の手法は、①省庁や内局・外局の統廃合や特殊法人はじめとする外郭団体の整理統合など行政組織の統廃合、②国の事業や権限の地方への移譲など地方分権の推進、③大型公共事業の見直しなど大規模な補助金を見直し、予算の大幅削減を実現すること――が中心でした。

しかし、各省庁の予算は、経常経費に係わる行政費用や小規模な補助金・事業委託費などの積み重ね部分も大きく、この部分への切り込みは、公的には会計検査院の検査、あるいは行政の会計処理に係わる市民団体の情報公開活動などに限られていました。とくに、我が国の中央官庁は予算書と決算書が項目的に一致していないという独特の会計処理システムが残存し、外部から適確な決算チェックがしづらいこと、さらには官庁側が詳細な会計情報を出し惜しむという厚い壁もあって、財政支出の無駄を指摘する手段が限られていました。

そこで、この事業仕分けにおいては、議員、政党スタッフ、参加する市民が公正な判断を下せることができる詳細かつ適切なデータ提出をいかに官庁側に要求できるかが、大きな課題となります。今回、民主党の作業では、「構想日本」をモデルとした「事業説明シート」を用いて官庁側の説明を求めましたが、今後は、個別の施策の政策決定過程、予算を付ける際の基準、予算執行課程などが明確となる資料要求のあり方をさらに追求していかなければなりません。

 

(2)作業結果についての実効性の問題

事業仕分けについては、平成18年に施行された「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」の第2条にその法的根拠が置かれています。第2条は、「政府及び地方公共団体の事務及び事業の透明性の確保を図り、その必要性の有無及び実施主体の在り方について事務及び事業の内容及び性質の応じた分類、整理等の仕分けを踏まえた検討を行った上で、国民生活の安全に配慮しつつ、政府又は地方公共団体が実施する必要性の減少した事務及び事業を民間にゆだねて民間活動の領域を拡大すること並びに行政機構の整理及び合理化その他の措置を講ずることにより行政に要する経費を抑制して国民負担の上昇を抑えることを旨として、行わなければならない。」と規定していますが、しかし、この事業仕分けの手続きや執行に関しては法的な規定はありません。

現実的には、作業結果を実行に移すかどうかは、自治体の場合では首長や議会の意思に委ねられることになりますが、国の場合、次年度の予算編成に生かすかどうかは所管の大臣や予算編成にかかわる各省庁の担当部局の他、財務省や与党、国会議員と多くの利害関係者の意思・思惑が複雑に絡んできます。また、省庁の利益を優先する中央官僚組織では、直接的な予算削減や地方への権限委譲に抵抗する傾向にありますから、政党によって事業仕分けが行われても、直ぐにそれが実行に移される保障はありません。

「構想日本」によると、行財政改革に熱心な首長がいる地方公共団体では、翌年度の予算編成に、事業仕分け結果を着実に反映させる自治体が多いとのことですが、国の場合については、今後、事業仕分けの手続き、具体的な処理方法を規定した法整備を行い、実効性の確保をはかっていく必要があると考えます。

 

(3)仕分けの判断基準の問題

事業仕分けは、行政において無駄なもの、重複するもの、あるいは必要性や緊急性に欠けるものを廃止、縮小、外部委託し、行政経費の軽減化をはかることを主たる目的にしています。しかし、重複する施策を指摘するのは簡単ですが、無駄なものや必要性がないものについては、何をもってそのように判断するのかという統一的な基準が明確でないという問題があります。

「構想日本」が実施した地方公共団体での事業仕分けでは、一つの予算項目や施策が短時間のうちに「継続・縮小・廃止・外部委託」と処理されることに、参加した住民から不安の声が上がったこともあったようです。もちろん、一般公開された事業仕分けは最終段階のものであり、事前に、実施者が周到な調査や役所の担当部局と綿密な情報交換を行っているわけですが、住民や行政担当者の不満や不安の声は、その判断基準が本当に適確であるのかどうか、というものでした。

例えば、事業仕分けでは、社会福祉関係や障害者施策関係の予算が重複・無駄という判定をされる場合もあります。この場合、関係者の目からすれば、それは行政改革の名を借りた単なる福祉切り捨て施策ではないかと見られます。

国や地方公共団体の基本政策が「福祉国家論」に立てば、様々な社会福祉施策は拡充させていくのが適確な判断基準となりますが、逆に、財政再建論に立ったり、自助努力や家族の相互扶助を原則とする社会保障論に立てば、多く社会福祉施策で無駄と判断されるケースは増えることになります。また特定のグループに行政サービスを重点配分することは、公平性の観点から問題であるという判断に立てば、障害者や高齢者、あるいは失業者や低所得者への施策の多くは縮小・廃止という判定が導かれます。特に、この社会保障・社会福祉の分野においては、事業仕分けの判断基準をより明確化しておかないと、住民の大きな反発を招くことになると思います。

併せて、研究・開発分野においても、この判断基準が問題になってきます。現在、各省庁は様々な調査や研究を団体・大学・企業に委託していますが、事業仕分けでは、短期的に成果が出てこないものを「無駄な支出」と判定するおそれが出てきます。そもそも、社会が必要とする研究、あるいは将来を見越した基礎研究の可否を市民や専門外の学識者グループの判断に任せられるかどうか、という問題があります。また、これまでの歴史の中で、無駄な研究として揶揄されてきた研究や技術が、その後、大きく社会貢献する研究に生まれ変わったという事例は山ほどあります。

いずれにしましても、行政の無駄を取り除き、必要とされる分野に重点配分するための事業仕分けの目的・理念は尊重されなければなりませんが、判断基準を曖昧にし、間違った判断をしてしまえば、事業仕分けそのものの意義を失うことになります。一方で、基本政策に係わる施策への判断を回避しようとすると、「鉛筆一本を無駄にするな」程度の枝葉末節の議論で終わってしまいます。

事業仕分けは、判断基準を明確にするという努力を続ける中で、より有効な行政改革の手法として、大きな社会的評価が得られるようになると考えます。