政策レポート

2008年9月30日

当面の物価対策と経済政策について

1、所得流出と貿易赤字

昨今の原材料費高騰による卸売物価と消費者物価の上昇は、国民生活と各産業に深刻な影響をもたらしています。このことを国民所得統計から見ますと、「輸入物価の大幅な上昇」と「輸出物価の停滞」という要因によって日本から海外への所得流出(交易損失)となって現れていることになります。

9月12日に内閣府が発表した4-6月期の国内総生産(GDP)速報によると、所得の海外流出の額は年間ベースで28兆1千億円に達し、過去最大となりました。この額はGDPの約5%に当たる大きなものですが、この所得の流出分を、企業は収益を減らすことで、また家計は物価高に対する支出増か節約によってその穴埋めをしている構図になっています。

 

図1.交易損失と交易条件の推移
clip_image002.gif
図は参議院企画調整室資料より

また財務省が9月25日に発表した8月の貿易統計は、輸入額が輸出額を3240億円上回りました。貿易が赤字になるのは1982年11月以来、約26年ぶりと言われています。その主な要因は、北米向け輸出が21.3%も大きく落ち込んだこと、また原油が64.3%も増額するなど資源価格が高騰したことにあります。今後は、アメリカ経済は金融危機によってさらに低迷が予想されるため、研究機関は、我が国の本年の所得流出は30兆円に上ると予測しています。

 

図2.通関貿易収支(月次)
図はアイ・エヌ情報センター資料より

この所得流出は、まさに日本経済の大きな重石となっているわけであり、ここで、政府としても大胆な政策を展開しないと、企業は収益率の低下によってさらなるリストラを迫られ、中小・零細企業の倒産の増加や新たな雇用不安を呼びおこす懸念が出てきます。

 

2、政策対応の基調と具体的施策

当面する経済・金融政策としては、まず①国際的な原材料の高騰を防ぐ施策の展開、②所得の海外流出によって生じている企業や消費者への負担を軽減する施策の実行、③海外流出した所得28兆円を吸収し、出て行った所得を我が国に還元させていく施策の展開――の3点を政策基調にする必要があると考えます。

この視点から有効と思われる四つの施策について以下、列挙します。

(1)投機マネーの規制

原油・穀物先物市場への投機マネーの流入が価格高騰の大きな要因になっていることから、商品先物市場における商品指数投資(コモディティ・インデックスファンド)の規制や通貨取引税(国際連帯税)の導入などによって、原油、穀物、原材料に対する投機マネーの動きを規制する施策を国際的協力体制のもとに実現させる必要があります。アメリカの金融危機への対応が、金融機関へのさまざまな規制強化の方向に向かいつつある中で、これらの施策を実行に移すチャンスが広がっていると考えます。

我が国にとってもう一つ大事なことはレアメタルの安定的確保があります。強い国際競争力をもつ我が国の製品の多くがレアメタルを原材料の一部にしており、国際的な投機マネーがレアメタルの分野に向かって取引市場を混乱させないような対策を講じることが重要です。我が国産業の競争力を維持していくためにも、このレアメタルの安定供給については国家プロジェクトを立ち上げるような意気込みで取り組んでいく必要があると考えます。

 

(2)流失所得を穴埋めする政策の推進

原材料価格の引き上げは膨大な所得の海外流出を引き起こし、経済主体としては家計と企業をその負担を背負っている形になっています。家計は、ガソリン代をはじめとする消費者物価の上昇という形でこれを負担し、企業は輸入コストの上昇を価格転嫁できずに企業収益の低下という形で負担しているわけです。当然、家計の購買力は大きく低下し、また企業も設備投資や雇用を抑制していくことになります。こいうった状況が悪循環化していけば、我が国の経済と国民生活は深刻な事態に陥っていきます。

当面、この国民負担を軽減していく政策が求められますが、まず家計については所得税減税が有効であると考えます。また個別企業においては、さらなるコスト削減が実施されることになるわけですが、この際、従業員の労働条件引き下げや雇用合理化は避けるべきであり、省エネ対策の推進、自然エネルギーを中心にした代替エネルギーの開発・利用、流通・物流部門の合理化などの施策を展開していくべきであると考えます。政府としては、このような企業努力に対して、税制優遇措置などの支援策を積極的に講じていくべきでしょう。

併せて、価格転嫁を容易に実施できない中小企業に対しては、独占禁止法の弾力的運用を含め、特別の対策を講じることも考えなければなりません。また、原油の高騰が大きく影響していることから、国としてはエネルギー政策における脱石油の方向を一段と明らかにしていき、その中で自然エネルギーの積極的な開発・利用をはかるとともに原子力発電を再評価していく必要があると考えます。

 

(3)資源国への流出資金の還元

産油国などに流失した我が国の所得については、それを効率的に我が国へ還元する仕組みを作っていく必要があると考えます。例えば、資源国に対しては民間の積極的な投資を支援するとともに、資源国に対するODAについても、環境・教育・医療などを中心にした生活インフレの整備に積極的に関与し、それらの事業から当該国の富が我が国に還元できる仕組みを段階的に構築していくことが重要だと考えます。

 

(4)輸出促進策の実施

輸出物価が停滞している状況に対応するため、量的な拡大をはかる努力によって少しでも交易損失の軽減化をはかっていくことを考えなければなりません。このために、WTOをはじめとする関税率引き下げのための国際的な交渉の場でいっそうの努力をしていくとともに、農産物の輸入自由化に向けた国内合意形成に努めていくことが必要です。この際、我が国の農業経営を維持していくための大胆な施策が求められますが、民主党が主張している「戸別所得補償制度」が有効な施策であり、その早期導入をはかり、農家への支援体制を強化していく必要があります。