2008年7月11日
地上デジタル放送移行まで3年 課題と対策
3年後の2011年7月24日にアナログ放送が完全に終了し、地上テレビ放送は全てデジタル放送に切り替わります。現在でも、地上デジタル放送は都道府県庁所在地を中心に全国90%以上の世帯をカバーしていますが、実際に視聴している世帯はその半分にも満たない状況であり、今後3年間の準備が大きく問われています。
(挿絵は総務省「地上デジタルテレビ早分かりガイド」より引用 )
(1)放送事業者の準備
デジタル放送への完全移行のために、各放送局は電波送信・中継局の整備や番組制作機器の更新など膨大なコストをかけながら準備をすすめています。NHKは、これまでの投資を加え総額3850億円を見込み、民放127社も総額で1兆440億円を見込んでいます。この負担が経営に与える影響は大きく、特に地方のローカル局にとっては重い負担となっており、系列の中央キー局からの支援を必要としています。
このデジタル放送への切り替えを管轄する総務省は、昨年(2007年)9月に「市町村別ロードマップ」を、また本年3月に「中継局ロードマップ第3版」を発表していますが、ここで明らかになったことは、中継局を整備しても難視聴地域が多く残るということです。そこで総務省は、放送事業者が責任を持って対応できるよう放送事業者への支援策を講じています。例えば、先の通常国会では「電波法」の改正が行われ、携帯電話の事業者や所有有者、あるいは放送事業者が払っている電波利用料から、地デジ移行のための送受信環境整備事業にも予算が使われるようになりました。私は、参議院の総務委員会委員として、この法案審議や法案修正に関わりました。民主党は電波利用料の使途の一方的な拡大には異議を唱え、支出項目の拡大には一定の歯止めをかけましたが、地上デジタル化の支援政策は認めることとしました。しかし、現在のところ、このような新たな支援策が講じられたとしても、地デジの難視聴が完全に解消されるという保障はありません。
(2)各家庭の負担
私たちの家庭においては、電波受信とデジタル映像のための機器を用意しなければなりません。
準備する機器などは条件によって違いますが、概ね次のとおりになります。
①UHF用のアンテナ
現在のアンテナがVHF用のみの場合は、新たにUHFアンテナを購入する必要があります。費用は、工事費込みで3万5000円程度が見込まれています。一方、すでにUHFアンテナが設置されている家庭でも、方向調整や電波の増幅器(ブースター)が必要となるケースも出てきます。また、ケーブルテレビの場合は、伝送方式によってデジタル放送用の「セットトップボックス」が必要となる場合があったり、利用料金が変更される可能性も出てきますので、ケーブルテレビ会社への確認が欠かせません。
②デジタル放送用受像器
デジタル受像器を新たに購入するか、現在のアナログ受像器にデジタルチューナを繋ぐか、どちらかの対応になります。チューナーに関しては、政府は5000円程度の価格に抑えたいと言っていますが、現在、1万5000円程度するチューナー価格がそこまで安くできるかどうかの見通しは立っていません。
③共同受信アンテナの改修
マンション・集合住宅の共同受信アンテナの場合や受信障害対策共聴施設の場合は、場所や設備によって改修工事の必要が出てきますので、管理者との間での調整していくことになります。
このように、3年後の地上テレビ放送の完全デジタル化に向け、送信側も受信側も大きな負担を強いられることになります。そこで、何故に地上テレビ放送をデジタル化しなければならないのかを次に見てみます。
2、デジタル放送のメリットとデメリット
政府は、デジタル放送のメリットとして、①現在のアナログ放送に比べ高画質・高音質が楽しめる、②多チャンネル放送や双方向のデータ放送、携帯端末向け放送(ワンゼク)が可能となる、③現在のVHF帯の周波数が空くことにより、過密になっている電波の有効活用が可能となる、④受信機器製造やコンテンツの国際競争力を高める――などが挙げられています。
一方で、デメリットや問題点を指摘する声としては、前述のように、第一に、放送事業者や視聴者がデジタル放送切り替えのための負担を強いられること。特に高齢の低所得者層の負担は限度を超えると見込まれていること。第二に、最終的に、難視聴地帯の約30万から60万世帯がデジタル放送の受信ができなくなること、第3に、共聴施設のデジタル化に向け負担のあり方を巡って多くのトラブルの発生が見込まれること、第4として、現在のアナログテレビが大量に廃棄(予測値は総計2800万台)されることになるが、リサイクル料金(2,835円)から逃れるために大量の不法投棄が懸念されること。第5に、デジタル化にともなう著作権保護の複雑な問題が残されていること――などです。
メリット面については、まさに主張されているとおりです。また、先進工業国では、すでにオランダ、スウェーデン、フィンランドがデジタル化を終え、またドイツは本年中に、アメリカは2009年、フランスは日本と同様に2011年のデジタル化が予定され、もはや地上デジタル放送は国際的な潮流になっています。ほぼ全世帯に普及しているテレビが、発展し続ける情報技術の端末として有効に活用されれば、当然、日常生活における利便性は高まり、また質の高い情報を得ることができ、国民一人一人が高度情報通信技術のメリットを享受でき、国民生活は大きく変っていくことになるでしょう。
しかし、高齢者をはじめとする視聴者の立場に立てば、科学や技術の進歩に伴う負担や犠牲はつきものであるとしても、政策的には、公正さを保ちながら、負担増を極力軽減化していくことが重要になると考えます。この政策をきちんと実行しないと、地上テレビ放送の完全デジタル化は本当に必要性があったのか、あるいは、アナログ放送との並行放送で利用者に選択権を任せた方が良かったのではないか、という基本的議論が蒸し返されることになります。
3、共聴施設のデジタル化の問題
地上デジタル放送にむけて準備が進む中、議員事務所に問い合わせや問題指摘の意見が多いものは、共聴施設の改良工事とこれに伴う負担のあり方に関するものです。
現在、共聴施設は内容的に、①辺地共聴施設、②集合住宅共聴施設、③都市受信障害共聴施設、の三つに分けられますが、それぞれの問題点や課題をみてみます。
(1)辺地共聴施設の改良
現在、山間部や離島など地形的な問題によりテレビ電波を受信できない難視聴地区には辺地共聴施設が設置されています。その施設は2種類有り、一つはNHKの難視聴解消施設に住民組合が民放の受信設備を併設している共同施設(約8500カ所)。もう一つが、住民組合が独自に民放受信設備を運用している施設(約11000カ所)です。しかし、これらの施設はデジタル放送用のUHF電波の送受信ができないため、設備そのものの改修や周辺のケーブルテレビとの接続などが必要になってきます。このための住民の経費負担は一軒あたり3万5000円から32万3000円もかかるとされています。現在、辺地の市町村はデジタル放送の難視聴を何とか避けたいと様々な対策を講じており、また政府も2007年度から負担軽減ための補助金制度を運用していますが、さらなる支援策の充実が求められています。この点については、山間へき地を抱える市町村の首長や議員の方々からも支援策強化の要請をいただいておりますが、私も積極的に行政の対応を求めていきます。
(2)集合住宅共聴施設の対応
マンションなど共同住宅のほとんどは屋上に共同アンテナを設置し各戸に電波を配信するシステムになっています。関係業界団体の調査によると、4階建て以上のマンションの約70%で、デジタル化に向けた改修の必要があることが明らかになりました。また、そのうち大規模改修が必要となるマンションは7.6%と推計されており、この場合は一世帯あたり数万円の費用がかかると見込まれています。
マンションの全住民にとっては、共聴施設の改修費用を共同で分担することになりますが、選択肢としてケーブルテレビへの切り替えという方法もあり、住民全員の合意形成をはかるためには、管理組合を中心にかなりの調整努力が必要になると思われます。この調整に失敗すれば、各戸がベランダにUHFアンテナを取り付けるという異様な風景が出現することになります。
(3)都市受信障害共聴施設の問題
都市受信障害共聴施設の場合は、問題解決への道が一段と複雑化します。この共聴施設は、高層ビルによる電波障害対策として、ほとんどが高層ビルの所有者が施設を設置・運用していますが、地上デジタル放送はアナログ放送より電波障害が少なくなるという特性から、問題は一挙に複雑化します。つまり、高層ビル所有者は、地域の電波の受信状況が良ければ共聴施設を運用しなくてもよく、このサービスから撤退しようとするからです。そうすると、共聴施設で受信している各家庭は三つの選択肢を迫られます。
第一は、あくまでも受信障害の発生を前提にデジタル化の前に高層ビル管理者に設備の更新を要求する方法。第2は、地上デジタル放送が始まってから電波障害の具合を調査し、この結果から問題があれば設備更新を要求する方法。そして第3が、電波障害は起きないということを見越し、各家庭が自らの負担でアンテナ・受像機の購入でデジタル受信のために自己負担する方法です。
いずれにせよ、総務省は都市受信障害共聴施設については、住民と高層ビル管理者との当事者間の話し合いによる解決を期待しています。但し総務省は無用の混乱を避けるために、負担のあり方に関する一応のガイドラインを示しています。これによると、例えば、第3の選択肢で示したように、高層ビル側が電波障害は生じないとして共聴施設を撤去し戸別受信方式に切り替えた場合には、一般的なUHFアンテナ設置費用の3万5000円を超える金額については高層ビル側が負担する、というものです。しかし、このようなガイドラインが果たして双方の理解が得られるのかどうかは不明です。各地で住民とビル管理者の間のトラブルが多発する懸念が残ります。
4、著作権問題とダビング10
7月4日から、地上デジタル・衛星デジタル放送のダビング10という制度がスタートしました。これは、テレビのデジタル放送に関して無制限の複製を制限するという著作権を守るための規制するものです。
デジタル放送では、従来のアナログ方式に比べて画質の劣化が無いために、受信者によるコピーを際限なく許せば映画などのDVD販売等に影響することが予想され、2002年4月のデジタル放送の開始時点からコピー・ワンス規定という厳しいコピー制限制度を採用してきました。
しかし、視聴者からは1回のダビングでは少な過ぎるという不満の声が高まり、政府の審議会で著作権者団体、放送業界、メーカー、消費者団体などの間で調整が行われてきました。そして北京オリンピックを目前に、9回までのコピー(オリジナルを併せ10個の放送データが手元に残る)を認めるということになり、7月4日に新たな制度がスタートを切りました。
この制度は、デジタル放送の完全移行に向けた準備段階において、国民の著作権に関する意識の向上に資する制度になると考えられます。
なお、このダビング10に関連し、我が国では、「私的録音・録画補償金制度」という制度の見直し作業も進められています。これは「著作権法」にもとづき、家庭内などで音楽などの著作物を私的に使用することを目的とした録音・録画に対し権利者への補償金を支払うことを定めた制度です。具体的な補償金の支払い方法は、MDレコーダやオーディオ用CD-R、DVD-Rなど政令指定を受けた特定機器・記録媒体を購入する際に、当該の補償金を商品価格に上乗せして消費者が支払うというものです。録音については1993年6月から、録画については2000年7月から実施されていますが、現在、著作権団体は、対象機器の拡大(HDD内蔵型レコーダーなど)をはかろうとしています。これに対し、「多くの消費者はこれらの機器を使い、音楽や番組を時間をずらして、または場所を変えて視聴しているだけ(タイムシフト・プレイスシフト)で、著作権者の経済損失をもたらしてはいない」という観点で、家電メーカーは補償金の拡大に反対を表明しています。現在も文化庁が調整役になって両者の間で調整が行われていますが、デジタル機器・媒体への補償金の課金問題はデジタル放送への完全移行に伴なって派生してくる課題の一つなので、今後ともフォローしていきたいと考えます。
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