政策レポート

2005年10月 7日

政党と労働組合との関係のあり方について

はじめに

多くの勤労者国民の支持を得ている民主党が政権を目指していくためには、大きな支持母体である労働組合と適正な関係を築いていく必要があります。今回の総選挙においても、選挙の論点となった「郵政民営化問題」を巡り、小泉首相から「民主党は改革を阻む労働組合が支援している」と、攻撃材料としてこれを利用されました。民主党がこの問題を曖昧なままにしますと、今後とも自民党やマスコミから言われ無き誹謗中傷を受け続けることになりますし、民主党内部においても、さまざま軋轢(あつれき)が際だっていくことにもなると思います。
また一方で、双方が反発しあって距離を取り過ぎますとマイナス面も出てくる可能性も出てきます。10月5日、6日に開催された第9回連合定期大会では、民主党代表と連合会長の挨拶の間で、この問題に関する認識の大きなずれが見られました。民主党の政権獲得には双方の恒常的な協働が必要であると考える人々にとっては、この問題は大きな懸念材料となっています。
私は、いまこそ「政党と労働組合の関係」はいかにあるべきかというテーマについて、民主党、連合の双方が真剣に向き合って取り組んでいかなければならないと考えます。
折しも、私は民主党の新しい執行体制の中で団体交流委員会・労働局長を拝命し、この問題解決に向けて尽力すべきポジションに置かれています。以下、このテーマに関し、これまでの経過と論点をまとめてみましたので、関係者の皆様の論議の素材にしていただければ幸いです。

一、政党と労働組合の関係改善にむけた経過

(1)民主党側の検討

「政党と労働組合の関係」に関する問題は、すでに1998年の民主党結成時から存在しました。とくに選挙における候補者選定、あるいは構造改革に関わる民主党の政策選択などにおける労働組合からの関与・干渉に対し厳しい批判が行われてきました。一方、連合側も、国民的課題に関する政策要求であっても民主党が理解を示さなかったり、選挙時に労働組合員が献身的に選挙運動を支援してもそれに応えようとせず労組批判を繰り返す議員に対し大きな不満を募らせてきました。そして、民主党が党員・サポーターによる代表選挙を終えた2002年の秋頃から、連合首脳は、与党候補者の支援可能性を含む民主党との支持・協力関係の見直しを主張するまでに至りました。
両者の関係が著しく冷え切っていく中で、2002年12月に民主党代表に菅直人氏が選出されると、民主党は労働組合との関係回復をめざす動きを活発化しはじめ、2003年2月に「連合及び労働組合との連携・協力の基本的考え方について」(下記資料参考)と題する新たな方針を決定しました。連合側もこの民主党の方針を評価するに至り、両者の関係は形の上では一応修復されることになりました。

資料 
民主党「連合及び労働組合との連携・協力の
基本的考え方について」

(2003年2月18日)

民主党は、その結党理念の中で、『これまで既得権益の構造から排除されてきた人々、すなわち「生活者」「納税者」「消費者」の立場を代表し、「市場万能主義」も「福祉至上主義」にも立たず、自立した個人が共生する社会をめざす』ことを宣言し、その基本的立場に立って、日本の政治に一刻も早い政権交代を実現し、政権交代可能な二大政党制の一極を担うという重要な政治目標を追求している。
一方、連合及び労働組合は、労働条件の改善にとどまらず、「生活者」「納税者」「消費者」の立場から、様々な政策・制度要求の実現を掲げて活動し、そうした活動の帰結として「民主党を基軸とする」政権交代可能な、勤労者・市民を基盤とする幅広い政治勢力の結集をめざしている。
多くの政策課題の実現と政権交代という政治目標を共有する連合及び労働組合は、民主党がめざす国民各界各層とのネットワークの重要な一角を占めるパートナーであり、今後一層緊密な連携・協力関係を築き上げていく必要がある。

1.連合及び労働組合との基本関係について
国民的な政策課題の実現のための政権交代・政権獲得を命題とする政党と組合員及び広く勤労者の「生活と権利」の向上・発展を第一義的な使命とする連合及び労働組合の目的と性格は、その活動目標・政策等の全てが一致するとは限らないが、基本的方向性は共通するものが多く、とりわけ今日の社会経済情勢の下では両者の連携・協力関係を一層発展させていくことが、民主党にとっても、双方にとっても、極めて有意義かつ重要な課題である。
連合及び労働組合との関係は、あくまで自立・自主的な立場を尊重することを前提とし、政党の意思を連合及び労働組合に押し付けたり、ストレートに持ち込むべきものではなく、また党の意志決定が連合及び労働組合によって直接に左右されるべき関係でもない。両者の連携・協力関係は、双方の確認されたルールと信頼関係に基づいて、相互理解と意志疎通が深められ、双方のパートナーシップがより緊密となるよう努力していかなければならない。

2.政策における連携について
民主党と連合の政策的連携については、雇用対策や労働法制、社会保障など、国民的政策課題等について、相互に理解を深め、その共有化と実現に最大限の協力・連携をはかることが基本となる。
産業別労働組合の個別政策課題については、政党との間に政策的意見に相違が生ずることもあり得るが、その場合は、その相違を双方で認識・確認しつつも、それぞれの考え方と立場について理解し、一致点と協力事項を見出すべきであり、一部をもって総体としての対立関係に陥ったり、殊更に意見の相違を強調することは相互に回避するよう留意しなければならず、その努力が政党の側により多く求められている。

3.国会活動における連携について
各種制度・政策課題について、連合と連携した取り組みを展開する領域が様々に拡大している。そうした課題に対する取り組みに当たって、院外の取り組みと連動した国会対策活動を展開することは極めて重要であり、引き続き連合及び労働組合との協力・連携を拡充していく。

4.地域における連携について
政策課題や政治要求において地域の取り組みは極めて重要であり、各県、市町村段階で党の地域組織と連合及び労働組合の地域組織が様々な課題で連携が強化されるよう、意見交換や交流等を一層推進していく。
また首長候補擁立について、民主党も連合も多選・高齢化を回避するという擁立基準・考え方をそれぞれ持っている。擁立過程において、可能な限り相互の意志疎通をはかるよう努めることが前提とされるが、首長選挙を含む地方選挙で、民主党と地方連合等で候補者の選定が異なり、結果として取り組み方針が異なる場合もありうる。その場合でも、それぞれの判断の相違を相互に認識した上で、基本となる連携・協力関係の否定とならないように留意する必要がある。

5.議員(候補者)の連携姿勢について
議員(候補者)は国民、有権者の代表であり、政権をめざす党の「顔」である。一方、組合員は、市民・有権者であり、労働組合は、それを組織化した団体であり、民主党のめざす国民各界各層とのネットワークの重要な一角を占めるパートナーであることを忘れてはならない。
政党が国民各層の多様な意識とニーズを受けとめ、その政策的調整を含めて国民合意の形成をめざす立場であることを踏まえ、今後一層、党所属議員(候補者)は、協調と信頼関係が醸成されるよう努力することが求められている。

民主党はこの「基本的考え方」において、連合及び労働組合は民主党がめざす国民各界各層とのネットワークの重要な一角を占めるパートナーであり、今後いっそう緊密な連携・協力関係を築き上げていく必要がある、と明言したわけですが、別の見方からすれば、労働組合とは課題毎に適切な距離をとっていくことを表したものと言えます。先の連合定期大会で前原代表は、「労働組合からの要求については是々非々で判断する」と表明しましたが、この発言はこの文脈に沿ったものと言えます。具体的に言えば、民主党と連合は互いの自立・自主的な立場を尊重し、雇用や労働法制をふくむ国民的政策課題についてはより連携していくが、これまで意見の相違が見られた個別の産業的政策課題については、双方の相違点を理解しあい一致点や協力しあえる点を見出す努力をする、ということです。また、「基本的考え方」では、地域の労働組合や民主党県連と民主党中央の意思がたびたび対立してきた首長選挙の候補者擁立問題について、両者間の対立を先鋭化させてはならないとの基本姿勢も示しました。
以上の点から、民主党としては労働組合との関係について一定の整理をしたわけですが、個々の議員や政党支部の日常活動・選挙活動における労働組合との支持・協力関係、あるいは国家ビジョンに関わる連合の基本政策との調整など、本質的な課題について明快な方針を出したわけではないということです。私は、ここに、民主党と連合・労働組合の関係のあり方にかかわる諸問題が今日まで引きずられてきた要因があるのではないかと思います。

(2)連合側の検討

一方、連合は1993年10月の第3回定期大会において採択した「連合の政治方針」を時代の変化を踏まえたものにするために、1998年秋からこの方針の見直し作業に入っていきました。その背景には、①支持連携する政党が細川連立政権・村山連立政権で与党を経験し、国の基本政策や国家ビジョンに関するスタンスをより明確にしなければならない状況が生まれたこと、②村山連立政権・第1次橋本内閣では支持する政党が与野党に別れ、政治へのアプローチの見直しが要請されたこと――などがありました。約1年間の検討を経て、連合は1999年10月の第6回定期大会において、新しい「連合の政治方針」を決定しましたが、この中で、「政党との関係」について、次のように記述しています。

①労働組合と政党とは、性格と機能を異にし、相互に独立・不介入の関係にある。
②連合は、政策・制度要求の実現のために、政党および政治家への働きかけを行う。
③連合は、要求の実現に努力する労働組合にとって望ましい政党および政治家を支援し、選挙協力をすすめる。
④連合および構成組織は、連合の政治理念や政策の基調を共有し、その実現に向けて協働できる政党および政治家と協力関係をもつ。その場合の関係は固定的な支持関係ではなく、政治理念・政策重視による協力・協調関係とする。

この連合の方針と民主党の2003年2月の新しい方針を照合しますと、「政党と労働組合の関係」に関する双方の基調は一致・符合していると言えます。簡単に要約すれば、「政党と労働組合は支持・協力関係にあるのが理想的であって互いに深く介入しあうものではない。しかし、労働組合は勤労国民の要求の実現のために政策決定過程に関与する政党に働きかけ、一方、政党側は選挙や政策実現のための院外行動について労働組合に協力を求めることができる」ということになるかと思います。
かつては、総評=社会党ブロック、同盟=民社党ブロックと言われたように、社会民主主義をベースとする政党と労働組合の間には運命共同体的な一体感や統一性がありました。しかし今日では支持・協力関係という一定の距離をおいた関係に変わっています。まさに、このことで両者間のさまざまな調整システムが複雑化しているのではないかと思っています。今後とも、国民政党である民主党が発展していくためには、関係者がこの課題について的確な状況認識と方針をもち、細心の注意を払いながら対応していかなければならないと考えます。

二、政党と労働組合が共に目指すべきもの

政党と労働組合の関係のあり方について、民主党も連合も「独立・不介入」の関係が適切であると明言しています。しかし、この関係は二つの組織の距離感の問題として考えるべきではないと考えます。国民政党としての民主党、そして勤労国民の国内最大の組織としての連合が共に何をめざし、いかなる社会を築こうとしているのか、そして、そのためにいかなる協働ができるかという運動体としての関係のあり方がむしろ問われるべきです。
もちろん政党と労働組合は役割・機能は異なっていますが、双方とも市民・消費者によって支持され構成されている組織であること、また民主的に運営されるリベラル的な組織であることに違いはありません。互いの意見と立場を尊重し、議論を尽くせば、基本的政策理念や目指すべき社会像について大方の意思統一が為されるはずです。そこで、連合と民主党のそれぞれの結成時の理念や基本的政策、双方のリーダーがもつ政治理念や哲学などを照合した場合、大きく次の4点程度が共有されるのではないかと考えます。

(1)民主党を二大政党の一翼を担う国民政党へと大きく成長させること、そして、一刻も早い政権交代を実現すること。
(2)既得権益を擁護する構造を打破し、「生活者」「納税者」「消費者」重視の政策・制度課題の充実を実現すること。
(3)実質的な官僚主権の政策決定プロセスを排除し、政治(政治家)が行政に対してリーダーシップを発揮できる政治を実現すること。
(4)金権腐敗の政治構造を打破し、クリーンな政治を実現すること。

民主党と民主党を支援する労働組合が相互理解と意思疎通を深め、この四つの政治的・社会的改革目標を共有すれば、両者のパートナーシップはより緊密化することになるでしょう。
今回の総選挙で、小泉首相は郵政民営化法案に反対した自民党議員を既得権益擁護の守旧派というレッテルを貼って排除し、そして構造改革のさらなる推進姿勢を打ち出し、このことを国民に広く簡明にアピールしました。当然、その内容には大きな問題があり、改革の犠牲となるものへのフォローアップも不十分でしたが、そのアピール力の強さゆえに、民主党や連合が目指す改革も守旧派的なものに映ってしまうことになりました。民主党としては、小泉改革を越える改革構想を提示するとともに、とくに「公務員制度改革」をはじめとする公的セクターの改革問題については、国民的利益や社会的公平性を第一義とする改革案になるよう、当該労働組合との調整に真剣に臨んでいくことが求められています。この際、もっとも必要なことは、労働組合との調整における地道な努力の積み重ねです。このようなプロセスを通してはじめて民主党と労働組合との適切な関係が築かれることになると考えます。

三、労働組合の政治への関わり方について

政党と労働組合の関係を論じる際に、労働組合側にも留意すべき点があると考えます。以下、3点について、問題点の指摘と私の考え方を提示いたします。
第1は、政党・議員・議員集団に対する日常的なアプローチの問題です。今日まで、民主党内にあっては、労働組合出身の議員、あるいは労働組合が重点的に支援している議員によって「連合組織内議員懇談会」が組織されています。私もこの議員グループに加入しておりますが、このグループは、ある意味で労働組合の要求に対する良き理解者としてその存在を誇示しています。また、個別の産業別組織、あるいは金属労協など大産業別組織が協力議員団を組織し、日常的に産業政策などに関する情報交換などを行い、場合によっては政策調査会に対して直接的に要請行動を行っています。そして反対に、労働組合が議員に対して資金的支援や選挙時の応援を行うという構造的な関係にあることは説明を要しません。
このこと自体は労働組合の政治活動としては当然のことですが、民主党の内部あるいは外部からは、労働組合は強力な圧力団体であり金と人を提供することで政党をコントロールしようとしている、との見方が出てくることになります。とくに「応援しているのだから自分たちの要求を聞くのは当然ではないか」という一方的な発言はこのような見方を助長することになり、労働組合にとっても大きなマイナスになると思います。政党と労働組合は相互に独立したものであり、相互の自主性・自立性を尊重しあい、あるいは相互にチェックしあうことで組織力と政策立案能力を高めていくというのが理想です。労働組合は、このことに留意しながら日常的な政治活動をすすめていくべきでしょう。
第2の問題は、労働組合の政策要求づくりの問題です。当該産業が抱える政策課題を政党に持ち込むことは労働組合の重要な運動テーマですが、その際に、個別の産業利害にもとづく要求を過度に打ち出し、国民的視野を欠いたまま政党の政策決定過程にアプローチすることは問題になってきます。ここ数年、特定の産業への補助政策、あるいは産業税制の問題、さらには公的部門の改革問題などで民主党に対する政策要望が頻繁に行われるようになっていますが、このことは民主党の政策づくりの客観性に異論を唱える批判勢力を勢いづかせることになります。もちろん1998年の結成以降、民主党がこのような国民的利益に反する労働組合の要求を無条件に受け入れた事実はないと言えますが、今後も心構えとして、各労働組合は、国民政党に独自要求を持ち込む際は、基本的にこのことを意識してほしいと考えます。
併せて、私は労働組合が単なるエゴの集団ではなく広く国民の利益も考える組織として評価されることが大切だと考えます。例えば、労働組合が一般的な社会運動に積極的に取り組んでいくこともその一つでしょう。これまでも難病対策、臓器移植のためのカンパ活動、老人介護事業、新しいタイプの学校づくり、都市・農村交流などの活動が行われてきましたが、今後はさらに活動領域を広げていく必要があると考えます。
第3の問題点は、戦後労働運動の歴史的経過の中で醸成されてきたものですが、民主党内での特定のグループを支援する労働組合の問題です。これは民主党が拡大してきた過程にも関連しますが、党内の様々な議員グループが労働組合と呼応しながら主導権争いを活発化させますと、党全体の連帯と融和が大きく乱れる要因になります。労働組合と一定の距離を置く議員にとっては、このような働組合の動きは党への介入そのものと映り、このことがさらなる労働組合批判、連合批判へと繋がっていくことになります。昨今、こういった労働組合の動きはおさまりつつありますが、今後とも労働組合の慎重な対応が望まれると考えます。
以上、三つの問題点を指摘しましたが、労働組合としても政治へのアプローチ方法を再点検することが望まれるということです。連合の政治方針で謳われているように「労働組合と政党とは性格と機能を異にし相互に独立・不介入の関係にある」という両者の関係のあり方を今一度真剣に受け止め、民主党が政権を担うことができる政党へと大きく飛躍できるよう適切な支持・協力関係を築いていく必要があると考えます。

四、民主党と労働組合の分断策の克服

民主党と労働組合の関係について論じる際、政党側や労働組合側に内在する問題だけではなく、この両者の支持協力関係を希薄化・分断化させようとする外からの力が働いていることも指摘せざるを得ません。その最たるものは自民党・公明党の与党です。そして、その意を汲んだ一部の識者による論調も際だち始めています。
この背景には、2003年11月の総選挙、そして2004年7月の参議院選挙と民主党が大きく議席を伸ばし政権を狙えるポジションに至ったことに対する与党側の強い危機感があったということです。そこで民主党を弱体化するために、民主党を後押しする労働組合との関に楔(くさび)を打ち込もうとする動きが活発化したものと考えられます。この動きは、前々回総選挙における労働組合に対する選挙違反の徹底摘発、労働市場における規制緩和策の推進、大阪市に見られたような地方公務員の処遇に関する反労働組合キャンペーンなど見られますが、今回の選挙においても小泉首相は、労働組合は改革を阻む勢力であるとする選挙演説を意識的に行ってきました。
民主党と労働組合は、これらの意図的な反労働組合キャンペーンに対し過剰反応することなく、両者間の適切な支持協力関係を築きながら、勤労国民を代表する政党としての存在意義を国民に訴えていく必要があると考えます。また、労働者の権利や労働基本権を侵害するかのような行き過ぎた言動に対しては、当然のこととして、両者が結束して反論・反撃していかなければならないと考えます。

五、海外における労組と政党の関係

労働組合と政党との関係について論じる場合、長い歴史的経過の中で両者の良き関係を築き上げてきた欧米の事例が参考になります。以下、代表的事例となるイギリス、ドイツ、アメリカの歴史的経過と現状を概観してみたいと思います。但し、イギリスとドイツに関しては、労働組合が支援する社会民主主義政党が政権を担っているという事情があり、とくに公的セクター改革においては政府・政党側と労働側が直接ぶつかり合い、過度の緊張関係を生みやすいという事情をあらかじめ頭に入れておいていただきたいと思います。

(1)イギリス

イギリス労働党は、1900年に労働組合の全国団体のイギリス労働組合会議(TUC)と社会主義団体、協働組合などが協力して結成されました。そして今日でも労働党は、①団体加盟している労働組合、②社会主義団体など団体加盟している各種団体、③地区労働党、の連合組織として運営されていますが、やはり最大の支持基盤は労働組合です。
その支持システムの典型例は、労働組合がもつ「政治活動基金」制度です。いわゆる労働党に対する政治献金システムです。労働組合の弱体化を意図したサッチャー首相は、まずこの制度の廃止をはかり、労働組合と労働党にプレッシャーをかけようとしました。しかし、両者は徹底的に抵抗し、最終的には労働法制上、10年に一度の頻度で労働組合員による投票でこの制度の継続を承認すればよいという程度の制度改定に止まりました。現在でも、制度継続を支持する組合員も約80%にのぼっていると言われています。
ここで、イギリスの労働党と労働組合との関係の歴史をみますと、ニール・キノック党首の後を継いだジョン・スミス党首が1993年に実行した党大会投票システムの改革で、強力であった労働党内における労働組合の発言力を大きく制限したことが大きな節目の一つです。具体的には、団体加盟している労働組合の団体投票制度(block vote=組合員の数をまとめて投票できる制度で、9割の票が労組に割り当てられていた)を廃止し、党員1人1票制度を導入したことです。さらに、急死したジョン・スミスの後任党首トニー・ブレアは綱領改正や労働法改正によって左派色の強い労働組合の影響力を制限する党改革や、経営者や中間層からも支持を受けるような政策をつぎつぎと打ち出していきました。
そして、この3人の党首によって、万年野党に成り下がっていた労働党を国民政党へと脱皮させ、ついに1997年の総選挙で労働党は大勝利をおさめ政権を獲得すること至ったのです。
その後、暫くの間は党内改革派と労働組合との対抗は続きますが、①労働組合サイドも政権を支えるために一定の譲歩をせざるを得ないこと、②労働組合内における穏健派の発言力が増してきたこと、③財政的にも一般党員や経営者からの支援が増加して労働組合からの資金は50%を割りこんだこと――などにより、TUCと労働党との関係は徐々に相互に独立した関係へと変化していきました。
また現在では、公共サービスの民営化路線やイラクへのイギリス軍の派遣に反対する労働組合がブレア政権への反発を徐々に強めています。1998年時でTUC加盟70産業別組合のうち労働党に直接加盟していた組合は26組合にのぼりましたが、昨年(2004年)から消防隊組合の脱退を契機に労働党からの脱退が相次ぎ、現在では18組合とされています。また、労働党に対する政治献金の凍結の動きも続き、左派系あるいは若手指導者が台頭している労働組合を中心に労働党離れが加速しているような印象を受けます。
イギリスにおいては後述のドイツ同様に、政権を掌握する政党を支援する労働組合におけるジレンマ、つまり譲歩しながらも政権を守っていかなければならないことと、政権に反対してでも組合員の利益を守っていかなければならないこととのジレンマが鮮明に見られるのです。一方で、労働党を資金的に組織的に支援する労働組合は「労働組合=労働党連絡組織(TULO)」を中心に、従来と変わらない連携活動を活発化しており、イギリスにおけるこのような労働組合と労働党の間の動きを今後とも注視していく必要があると考えます。
現在、我が国の民主党の中には、イギリス労働党で行われたように、労働組合からの介入を制限したり、あるいは労働組合との関係を断ち切ることこそが国民からの支持者を増やし政権を得るための必要条件になる、との主張が存在します。しかし、この主張はイギリス労働党の結党から近年までの歴史的経過を軽視した議論であると言わざるを得ません。ブレア党首はイギリス労働党における労働組合のポジションを軽々しく扱ってはおらず、労働党の労働組合排除論は一面しか見ていない議論だと思います。我が国の民主党としても、このイギリスのおける政党と労働組合の関係の歴史的経過を参考にしながら、適切な関係づくりに知恵を出し合っていく必要があります。

(2)ドイツ

ドイツの労働組合の中央組織はDGB(ドイツ労働総同盟)で、第2次大戦後、西ドイツの地域内において「産業別統一労働組合」として出発しました。これは、戦前、イデオロギー、宗教、職業身分によって四分五裂の状態にあった労働組合がナチスの台頭を抑えることができなかったという教訓のよるものです。
DGBは政党との関係について、その規約で「政府、政党、宗教各派、経営者に対して独立であること」と規定していますが。具体的には次の4点です。
①労働組合の活動に対して政党から指示を受けないこと。
②労働組合が政党の目的遂行に対して、暗黙裡でも服従しないこと。
③「政党は政治活動」、「労働組合は協約活動」とする両者の分業は暗黙裡にも存在しないこと。
④労働組合と政党間に財政的依存関係がないこと。

しかしDGBは、労働運動は政治運動の一つであるから政治的に「中立」であることはなく、政党を支持するのは当然という立場をとっています。また選挙への対応についは、どの政党、どの候補者を支持するかは、労働組合の政治目標や政策要求に沿った主張をしているかを検討し、その判断材料を組合員に提供するという姿勢です。あくまで投票における最終判断は個人としての組合員に任せる立場です。但し、ドイツの場合、歴史的経過からDGBと社会民主党(SPD)との関係は緊密であり、産業別組織の幹部もほとんどがSPDの党員になっています。また逆に、SPDの党員はいずれかの労働組合に加盟するという関係になっており、今日、連邦議会の社会民主党議員の4分の3はDGB傘下のいずれかの組合員の籍を持っていると言われています。しかし、DGBの組織運営として、政党からの独立を守るために、不文律で二人の副会長はキリスト民主党同盟(CDU)の党員から選出されるようになっています。また、産業別組織の中央執行委員も、CDU、自由民主党(FDP)、緑の党などの党員も選出されるよう様々な配慮が行われています。
このように、ドイツにおいては、形の上では労働組合と政党の独立関係が明らかにされていますが、実態的は党員・議員の属性、資金面など多くの面で極めて緊密な関係を維持しています。一方、ドイツにおいても経済のグローバル化にともなう経済の構造改革の問題、社会保障政策の見直し問題、環境保全、移民労働者問題、EU内の主導権問題など、従来の社会民主主義的な政策手段では解決できない多くの課題を抱えています。これらの問題解決には労働条件、雇用への影響もあり、労働組合もこれら新しい社会問題に対する対応が迫られている状況です。とくにSPDは政権与党として社会経済の構造改革に取り組まざるを得ず、シュレーダー首相は「アジェンダ2010」という社会・労働市場改革政策を打ち出しましたが、DGB最大の金属機械労組IGメタルはこれに反対し、あからさまにシュレーダー批判を強め、DGBとSPDの間の緊張関係は高まりつつあります。
2005年9月の総選挙においてSPDは過半数に達せず、最終的にはキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と大連立を組み、シュレーダー首相は退任しました。これはシュレーダー首相の改革路線と社会民主主義路線の曖昧さが野党側に突かれたという側面と、労働組合のSPDへの非協力的姿勢が敗因の一つであるという見方があります。
SPDが今後、国民からの圧倒的支持を得て政権を運営できるように成長していくために、労働組合側も新しい国家ビジョンと新しい政治へのアプローチを考えていかなければならない時期を迎えていると思います。。

(3)アメリカ

世界で最も古い歴史を持つアメリカの労働組合は、経営者や反労働組合的な政治家からのさまざまな攻撃を切り抜け、中央政府や州政府の社会政策に対し、また大企業における経営方針に対して大きな影響力を与えてきました。今日、最大のナショナル・センターである米労働総同盟産業別組合会議(AFL-CIO)はこれまで約1300万人の組合員と潤沢な予算を有してきましたが、残念ながら2005年7月の大会で組織化・政治への関与をめぐる路線の対立が激化し、主要3組合・400万人が脱退しました。また組織率も、最も高かった35%(アイゼンハワー政権時)から14%(クリントン政権時)へと低下し、その傾向に歯止めがかからない状況が続いています。
近年のアメリカ政治における労働組合のポジションを見ますと、その転機はニクソン時代にまで遡ります。ニクソン大統領は労働組合との敵対関係をできるだけ避けるように政策展開してきましたが、1974年に退任して以降、共和党内の穏健でリベラルな議員達も次々と消えていきました。逆に、労働運動に対して敵対意識を持つ南部諸州から多くの共和党議員が議会に入ってくることになり、70年代後半から、共和党の労働組合に対する敵対心はますます強まっていきました。
一方、民主党の方は、50年代は南部諸州から数多くの保守的な民主党議員が議会に送り込まれていましたが、60年代になると民主党大統領がアフリカ系アメリカ人による市民権運動を支持した結果、共和党の地盤においてアフリカ系アメリカ人の支持を得たリベラルな民主党議員が共和党議員に取って代わるという結果になりました。しかし、多くの南部民主党議員はさらに保守的な共和党議員に打ち負かされ、保守系も力を得ていくという複雑な展開になりました。構造的には、南部から選出される保守的な共和党議員が増えた一方で、かなりの数のリベラルな民主党議員も議会に送り込まれたことで、アメリカの2大政党が互角の力を持つようになると同時に、この二つの政党はよりイデオロギー色を強めていったということです。そういった状況のもとで、アメリカの労働組合は組織率が低下しているにもかかわらず、80年代、90年代を通じ、よりリベラルになった民主党とかつてない友好関係を築き、併せて共和党とのパイプも残しながら労働者の権利拡大の運動を展開していきました。
アメリカにおける労働組合の政治との関わりを見ますと、大統領選挙に顕著に見られます。アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)は、1999年10月に第23回定期大会で2000年の大統領選候補者としてゴア副大統領への支持を決定しました。この時は、全米自動車労組(UAW)、全米鉄鋼労組(USWA)、チームスターズ労組は、ゴア氏の貿易政策が曖昧であることを理由に、左寄りの政策へと誘導することを意図してゴア支持に反対しました。最終的には、スウイーニー会長が、労働組合が長期的な目標を達成するために一丸となって協力すべきだと説得し、AFL-CIOのゴア氏支持に漕ぎ着けました。これより、各組合は選挙キャンペーンを人的・資金的に支援し、また多くの組合員は選挙投票を呼びかける電話作戦に取り組み、民主党と労働組合の一体感を示したわけです。これは、2004年の大統領選挙においても民主党のケリー候補支援で同様の体制が取られましたが、民主党候補の連続2回の敗北により、いくつかの組合からAFL-CIOの政治活動に対する疑義が出されるようなりました。これが本年7月の大会における分裂の引き金の一つになります。
アメリカの場合、もともと「弱者の立場」から政策を打ち出している民主党を労働組合が支持・支援するという構造でしたが、2000年、2004年の大統領選挙の結果、議会やホワイトハウスに対する民主党の支配力は低下し、また共和党が一段と保守化していく中で、労働組合は政治的にかなりの脅威にさらされるようになりました。現にブッシュ政権は労働運動に敵対的であり、労働運動を力で抑えようとしている姿勢に変わりはありません。
一方で、労働組合は反共和党・親民主党であるという図式も流動化しています。一部のAFL-CIO傘下の組合や地区組織では、9・11テロ事件後の人権抑圧やアフガン戦争にむけた公的年金基金や経済困窮州への交付金の削減、低価格住宅補助やホームレスへの社会サービスの切りつめなど、戦争動員のための貢献政策を民主党も支持していることから、民主党に対して露骨に異議を唱えるところも出てきました。労働組合としては当面する産業政策、あるいは失業対策や貧困対策などをめぐる社会政策の是非によって政党への支持の度合いを決めており、いまや民主党支持も一枚岩とは言えない状況になっています。本年年7月のAFL-CIO大会で脱退した主要3労組も、民主党への献金資金を組織拡大ための資金にまわすべきだと主張しており、労働組合の民主党離れが明確に始まろうとしています。
アメリカでは労働組合幹部が議員になっていくケースは少ないものの、労働組合と民主党との関係は、資金提供、選挙応援などを見ても、日本の連合と民主党との関係に非常によく似たところがあります。私としても、引き続きアメリカの労働運動の動向を注視していきたいと思います。
なお余談になりますが、先の連合大会において会長に高木剛氏が選任されましたが、これもAFL-CIOから分裂した組合の主張、つまり政治的な政策決定プロセスを重視するよりも足下の組織強化に資源をつぎ込むべきだとする主張に通ずるものを感じます。

──加藤としゆき

 

<参考文献>

藁科満治『出会いこそ人生の分岐点』より第Ⅲ部「連立時代10年の検証と民主党への提言」(2003年 日本評論社)
※注:基本的な考え方を含め、多くの点で参考・引用させてもらいました。藁科氏のご指導に感謝申し上げます。

桑原靖夫他編『先進諸国の雇用・労使関係』(2000年 日本労働研究機構)

“Business Labor Trend”(2005年10月号)

印刷用のファイルも準備しました。

pdf 政党と労働組合との関係のあり方について(PDF 61KB)