2005年3月10日
農業政策の改革について
現在、我が国における農業の改革が大きな話題になっています。
その背景には、各国間の貿易をより自由化するためのWTO(世界貿易機関)の協議やFTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)の交渉が活発化していることがあります。これらの交渉の中で、日本が輸入する農産物にかける関税が高すぎると非難されています。これを受けて関税を下げようとすると、日本の農業は輸入品との価格競争に負けて大きな打撃を受けることになります。また、このような対外的な圧力だけでなく、日本の農業は、農村の過疎化・高齢化、食糧自給率の問題、株式会社参入をめぐる経営形態の問題など、様々な課題を抱えています。政府も、審議会の答申を得て、まもなく「食糧・農業・農村基本計画」を決定する予定です。
以下、我が国農業の問題と改革の方向性について、基本的な考え方を列挙いたしますが、とくに農村の問題は同時に都市の問題でもあること、また兼業農家のようにサラーリーマンであっても様々な形で農業に関わっている人が多いことを念頭に、見解を述べさせていただきます。
1. 日本農業の衰退はなぜここまで衰退してきたのでしょうか?
我が国の農業は、農業人口、生産高、耕地面積のいずれにおいても縮小の一途を辿っています。
1960年に1400万人いた農業就業者は今では300万人にまで減少しています。これは、コメへの需要が大幅に減少してきた中で、政府が極端な生産調整で受給調整をしたことが大きな要因です。この減反政策は30年にわたって続けられ、水田の4割にあたる100万ヘクタールの水田が減らされました。しかし、政府がねらいとした農地集積や経営基盤強化のための政策は功を奏さず、他の農産物への転作政策も効果を上げられず、結果として農業離れがすすんでいったわけです。
併せて、第2次産業・第3次産業が大きく発展する中で、農家の一員が給与所得者として勤めに出る小規模な兼業農家の割合が増えていきました。労働組合員の中にも農業を営んでいる、あるいは実家の父母が農業を営んでいるという人は多くいます。また、都市化が一段と進む中で、都市近郊の農地はどんどん宅地に転用され、里山も破壊され宅地や工業・商業地として開発されていきました。
コメ作りに極度に依存した農業経営から脱皮させることができなかった政府のミスリード、さらに産業構造の大きな転換、都市化現象や食文化の変化などが日本の農業を衰退させたものと言えるでしょう。
2. 「日本の農業はどのように保護されてきたのでしょうか?
日本の農業がじわじわと衰退していくのを横目に、農村を主たる選挙基盤とする自民党政府は長年にわたり、将来展望のない農業保護政策をとり続けてきました。土地改良事業や農道整備など農村に対する財政支援や農家に対するさまざまな補助金、あるいは食糧管理制度におけるコメの価格引き上げによる所得保障などです。他方で、輸入農産物に対して高い関税をかけて外国の農産物の輸入を制限し、農家が高い価格で農産物を売れるような価格支持政策も取り続けてきました。
しかし、農地の集積化をはかりながら専業農家の経営基盤を強めていく戦略は大きな成果をあげることはできませんでした。結果的に、日本農業は国際的な競争力をつけることもなく、弱い体質を残したまま今日まできたのです。一方、欧米では政府が積極的な農業政策を展開し、食糧自給率の向上を視野においた戦略的な保護政策が展開され、農業の国際競争力を大いに高めていきました。日本の農業とは全く対照的な対応でした。
現在でも、我が国の農業予算は、農業の基盤を強化するための効率的配分は行われていません。平成17年度の政府予算案では、農林水産関係の予算は総額2兆9672億円ですが、このうち44%にあたる1兆3124億円が農道整備や土地改良事業などの土木事業に使われ、23%にあたる6755億円が食料安定供給関係費に回されることになっています。もちろん、土木事業の一部は農地の集積化や生産性をあげるための改善対策に使われるのですが、今日では「土木業者のための事業」と言われるくらい目的が不明確になりつつあります。農業予算全体としては、農山村・漁村の活性化、食品の安全対策、環境保全対策といった方向に僅かにシフトしつつありますが、課題は依然として山積していると言わざるを得ません。
3. 自由化の中で農家の所得をどのように保障すればいいのでしょうか?
日本の農業政策は、輸入農作物に対して高い関税をかけて、国内の農家を守ってきました。例えば、コメに490%、麦に210%、バターに330%の高率関税がかけられています。安い輸入品が入ってくると国産品は売れませんから、国産価格の何倍もの関税をかけて日本への輸出を困難にさせるのです。当然、国産品は高い価格のままで売れるわけですから、農家の収入は維持されることになります。
しかし、この政策は、(1)関税で守られた農産物に生産が集中し過剰生産を引き起こすこと、(2)コメに見られるように、過剰生産・在庫管理のための財政負担がふえること、(3)日本の国内価格があまりにも高いことから輸出国を中心に国際的な非難が高まってきたこと、(4)関税によって高価格が維持されることは消費者がこれを負担しているわけであり、消費者の反発が強まっていること――などの理由から、いまや政策的な行き詰りを起こしているのです。
この価格支持政策に対して、欧米で実施されている農家への「直接支払い方式」が大きくクローズアップされてきました。政府も「食糧・農業・農村基本計画」において、ようやく「直接支払い方式」の全面的導入を打ち出す方針です。この政策は、関税を撤廃して農産物の貿易取引を自由化し、そのかわりに価格低下分によって受けた農家の損失分を国が直接補償するという制度です。 では、この制度はどのようなメリットがあるのでしょうか。まず、生産性が低く価格が高い農業生産への負担が消費者から納税者に変わるということにあります。つまり、この措置によって消費者は低価格の農産物を得るという大きな利益が生じます。
さらに対象農家を戦略的に限定していくことにより、農業の効率化、農業の競争力を強化することができます。日本では、価格維持政策の下で農業生産の効率化がすすんでいませんので、この直接支払い方式を構造改革政策とあわせて実施する方策が有効だとする考えです。一定規模、たとえば3ヘクタール以上の土地を保有するコメ作農家に限定するといった政策が考えられます。一方、民主党が昨年の参議院選挙で打ち出した「直接支払い方式」は全部の農家を対象にし、零細農家の切り捨て行わない方針です。政府の「食糧・農業・農村基本計画」も零細農家が共同営農すれば対象とすることを打ち出します。しかし、無差別にすべての農家に補助金を出す方法は財政負担も膨大なものとなるだけでなく、国際競争に勝ち抜く農家を育てることができない、と批判されています。この点は、さらに有効な施策について議論していく必要があるでしょう。
また、納税者負担は国民の税金を農家に回すわけですから、消費者の立場からも負担と給付のあり方についても議論しなければなりません。「直接支払い」の対象を、効率化を目指す農家に限定した場合、年間の予算額は1兆7000億円程度と試算されています。現在、約3兆円の農業関連予算があるわけですが、国民負担を急激に増やさないためにも農業予算全般を見なおす必要があると考えます。なお、現在、我が国では限定的な制度として、中山間地域の特定の農業に対して直接支払い交付金が出されており、17年度予算案では、この金額が222億円となっています。
4. 食料自給率が下がっている問題は深刻なのでしょうか?
現在、日本の食糧自給率は、カロリーベース(国民が国産の食物でどのくらいのエネルギーをとっているか)で40%とされています。フランスが130%、アメリカ119%、ドイツ91%、イギリス74%という先進国に数字に比べると極端に低いということが分かります。さらに穀物の自給率は低く僅か28%です。この数字から、我が国の安全保障に関わる重大事ということで、食糧自給率を引き上げる努力をすべきだという議論が高まっています。政府も、「食糧・農業・農村基本計画」において2015年で45%を目指すという方針を打ち出します。しかし、食糧自給率をめぐる議論は大きな落とし穴があります。例えば、ご飯にみそ汁、魚の干物、おひたし、という従来の日本的な朝ごはんだと自給率は85%ですが、パンにハムエッグ、牛乳、サラダとなると僅か15%です。つまり食事の仕方、食文化をうまく変えることで、実質的な食糧自給率は大きく変わってくるということです。
また、我が国はフードロス(食糧廃棄)という大きな問題を抱えています。これは使える材料を敢えて捨てて調理したり、レストランなどでの食べ残しなどを言います。例えば、結婚披露宴では23%が捨てられていますし、コンビニなどでは賞味期限切れ弁当が大量に処分されています。日本人は世界から食材をかき集め、おいしいものをお腹いっぱいに食べ、そして食べきれないものを大量に廃棄しているのです。食糧・食品の国内生産は1500万トン、輸入が5800万トンの計7800万トンですが、このうち2000万トン(加工段階400万トン、流通段階700万トン、消費段階900万トン)が廃棄されていると試算されています。
食糧自給率を上げるためには、日本の農業を拡大していくことは当然でありますが、同時に食生活・食文化を改善し、フードロスの縮小化をはかる努力も必要であると考えます。とくに、食文化における和食への回帰は、欧米化した食生活が原因となっている疾病を大きく減らすことにもなり、一石二鳥の政策となります。
──加藤としゆき
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