研究会抄録

ウェブ鼎談シリーズ第(14回)「戦後の労働運動に学ぶ」

ウェブ鼎談シリーズ第(14回)「戦後の労働運動に学ぶ」

講師:仁田道夫氏、石原康則氏

場所:三菱電機労働組合応接室

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発言広場

【遅牛早牛】 「研究会の準備と現下の政局についての一言」

【今回は、時事雑考ではなく定例の「研究会」の企画をテーマとしている。「研究会」については前回が2021年2月掲載なので丸3年間の空白がつづいている。感染症へのおそれが足の運びを鈍らせていたわけであるが、くわえて筆者の引っ越しも影響している。ということで「研究会」の再開をねらっての提案である。】

【さて、すでに新年度が視野にはいっているというのに政治の場では「裏金事件」の尾が切れず、ずい分と難渋しているようである。その原因のひとつが鳴り物入りではじめた政倫審が生煮えで終わったことであろう。政倫審への期待感を高めたのはマスメディアなのであるが、これは商業性をもつ組織としてはしかたがないことであると思う。「政倫審なんて大したことにはならない」と斜にかまえ、いかにも訳知り風にあつかっていたのでは報道にはならない。太鼓をたたいて期待感を高めないと商売にはならないのである。

 しかし、そうであったとしても政倫審がビッグニュースを生む舞台ではないことは経験からいっても報道関係者は理解していたと思うのだが、結果は予想通りもの足りないものであった。だから、真相が明らかになると期待していた人びとは不満を募らせることになったが、そういった不満を追い風に「証人喚問」をせまっていくのが野党とそのシンパの目論見なのである。この罰則をともなう「証人喚問」の心理的圧力は相当なもので、虚偽発言であることの証明が困難であるとわかっていても、応答はたいへんなのであろう。汗だくだくの場なのである。ということで記憶にあるなしについては外からその真偽を確かめられないことから「記憶にありません」という答弁が多用されてきたということである。このさき「証人喚問」をやるにしても「記憶テスト」になる可能性がたかいと思われる。

 ということで真相解明という意味ではむだなように思われるが、疑わしい宙づり状態がつづくことが野党にとっては好都合なのであろう。くどいようであるが、検察と法廷以外の場で真相が暴かれることはめったにないのである。ただし、隠せばかくすほど、また白(しら)をきればきるほど、疑惑がふくらみ腐臭がひどくなるので、野党が真相解明と称しながらもろもろこだわるのは戦術としても意味があるからであろう。

 ここで、突きはなすようだが、知りたいことのほとんどはすでに明らかではないか。ただ、証拠がないだけで有権者の投票にあたっての判断材料としては十分だと思っている。もし証明できるのであれば検察はさらに多くを起訴していたであろう。国会は立法機関であって司法機関(裁判官弾劾を除き)ではない。権能においても不十分であるのだから、真相解明をてこに国会の時間資源を浪費してはならないと思う。とりわけ予算案は年度内に自然成立するのであるから、参議院での予算審議は貴重である。国会での質疑応答は予算執行にあたってのガイダンスの役割を負うことから細目もふくめ丁寧におこなうべきである

 また、3月17日には自民党大会が開催され「政治と金」への当面の対応がしめされている。さらに、不記載であった議員への処分も国会会期中には明らかにされるという。(それでは遅いことを多くの議員が理解しているので、党内的にも早められるであろう)それをまっての議論再会ということになるのではないか、と予想している。

 そこで、「どうせうやむやにするのだろう」という予断をもって酷評している向きも多いが、世の中そういう人々だけではなく実際のところ不十分な対応におわってほしいと期待している人たちがいることも事実であろう。一連の騒動には権力をめぐる政争という側面もあり、どうしてもドロドロとした策謀がうごめくことは止められないし、もっといえば内心では自民党にけじめをつけてほしくないという立場もあると思われる。とりわけ、自民党の支持者の間においても穏便な終息を期待する向きもあるのではないか。

 しかし、国民全体の視点でいえば、そういうことでは困るのである。国のかじ取りが難しい時であればこそ、政党が自らけじめをつけることで国民からの信頼をとりもどすことが一等重要であり、そのためには深甚なる反省がひつようなのである。もちろん政党に深甚なる反省などがありうるのかとも思うが、そういった反省過程を元からありえないと全否定したところで、政治の砂漠化を止めることはできないわけで、唯一手元に残っている投票という鞭を握りしめながらここは反省過程を厳しく見つめることに「被統治者である主権者」としては落ち着かざるをえないのでないかと思う。

 さて、今回の自民党の主題は「安倍派処分」と「長老引退(追放)」であると考えているのだが、野党においては岸田総理をさまざまな手で追及しているようにみえて、しかしじつのところは岸田さんに手を貸している面もあるように見うけられる。たとえば今回すすんで政倫審にのぞみ弁明したのは岸田文雄氏と西田昌司氏であったというあたりがなんとも象徴的ではないかと思う。つまり二人の発言の肝は「責任をとるべき者が居る」ことと、それは「小さくいえば自分もふくまれるが、大きくいえば自分はふくまれない」ということで、党内闘争宣言の趣きがあるように思われる。

 自民党内においては、派閥解消が30年来の宿題であったのだから、まだ半壊状態とはいえ筆者などは今回の暴走的決断を評価している。くらべるのは悪いと思うが、野党においても各党とも宿題をかかえているのだが、今のところ果敢に挑戦しているとは思えないのである。今回、派閥から金権を取りあげ政策集団化に成功すれば、残念ながら(?)またもや自民党が先頭にたつことになるであろう。ともかくもきびしい試練をうけたグループこそが鍛えられるということである。

 内閣支持率が歴史的な低水準にあることから、岸田政権がすこぶる脆弱であるかのようにうけとめられているが、しかし派閥が半壊状態にあるなかで、総理であり総裁である岸田氏が手にしている権限は、役職人事権、選挙公認権、資金配分権など絶大ともいえるもので、今でこそ十分発揮できていないのであるが、環境次第でさまがわりになると思われる。

 にもかかわらず脆弱というよりも虚弱と見られているのがふしぎではある。それは見かけというかスタイルの問題であって、やっていることを吟味するならば、狷介ではあるが結果において老獪でもあるといえるであろう。筆者が評した「暴走宰相」の面目躍如であって、世評でいわれるほどの低品質ではないと思っている。もちろん嫌われていることはまちがいないのであるが。

 つまり、プロセスこそ感心できないが(酷いと思うが)、やっていることはそこそこの内容であって、そういう成果の面に対してはほとんどの批判勢力が運といいたいのであろうが、3月段階での賃上げ率(連合集計5.28%)などは、政府は関係ないと大声をだしてみても結果は結果であって、すくなくとも政労使でタッグを組んでいることは事実であるし、連合もそれを否定していないではないか。運も実力のうちであろう。

 この点だけでいえば立憲民主党は損をしている。昨年の臨時国会では岸田総理が経済三唱、泉代表は賃上げをふくめ沢山三唱、玉木代表は賃上げ冒頭三唱となんか分かりやすかった。とはいえ2023年10月の段階でいえば、2024年春の賃上げが連合傘下では前年を上回ることはほぼ見えていたわけで、のこるのは円高などの急変時への対応が気になるといった程度であったと記憶している。賃金交渉に知悉していれば野党として「かっこいい立ち回り」もありえたのではないかと思っている。結局のところ、せっかくの賃上げ三唱のわりにはおくれをとっているのではないかとみられている分、損しているのではという意味である。こういった成果争いは非対称な関係であるから、単純な比較はアンフェアというべきであるが、連合が支持団体であることが、小企業、未組織、非正規からは縁遠いというか、非友好的な見方をされているように思われる。この分野では野党にも活躍の場があると思われる。

 また、国民生活とは直接関係しないといっても株価が4万円台を固めつつある。これも明るいことには違いない。さらに、TSMCの工場誘致で一地域とはいえ活性化している。ものづくり拠点を国内にとりもどすことは産業あるいは経済衰退への特効薬ではないか。くわえて国防を考えた時に、戦闘機は必需装備であることから英伊との共同開発は予算やメンテナンスだけを考えても有用であろう。不要なものはすぐ買えるが、ひつようなものはなかなか買えない、買うことができてもべらぼうに高いのである。高価な装備は継戦上の欠点である。戦闘機は不要であるというのであれば別の話と思うが。

 また、3月19日、日銀はマイナス金利をはじめ金融政策の見直しを決定し、正常化へ一歩を踏みだした。次は、小企業、未組織、非正規における賃上げであり最低賃金の引き上げであろう。連合もふくめ政労使スクラムの真価が問われる場面がきている。あわせて専任の総理補佐官の真価も問われるということであろう。

 すこし現政権をもちあげ過ぎのように思われるかもしれないが、仮に立憲民主党を中心にした連立政権ができたとして、たとえば先ほど記した項目について岸田政権とは違う方法でどれほどの成果がえられるのであろうか、また少子化対策において増税なしに有効な施策を打つことができるのであろうか。健康保険料というもっとも徴収しやすい、つまり不満がでにくい財源に着目するなど思わず「卑怯者!」とさけびたいが、5.28%もの賃上げによる保険料収入増が確実に発生するのであれば、連合として目くじらを立てるほどのことでもないと筆者などは安易に考えてしまうのである。近未来において立憲民主党などが政権を手にするのであればなおさらのことで、前政権のわだちを巧妙に活用してこそ、安倍政権のように長期政権が可能になるのである。大胆な現実路線を考える時期ではないかと思っている。

 最終的に雇用労働者の名目所得増がどのていど見込めるのかがまだ不明であるので生活支援策について断定的なことはいいがたいが、本年の6月には定額減税が実施されるので、おおむね6月7月の可処分所得は世帯あたり4万円(所得税3万円+住民税1万円を本人分と扶養親族人数分を税額控除)以上増えることになり、事務処理は複雑になるが生活面では中元手当などの一時金とあわせ砂漠のオアシス状態になると期待している。また、低所得者支援等も実施されている。これらは昨年の臨時国会で泉代表が提起したインフレ手当給付に相当するものといえるかもしれない。

 ところで、名目所得が増加すればとうぜん所得税等が増えることから税収が伸びることになり、今年中にもいわゆる課税最低限をあげることも可能であろう。少なくとも物価上昇分についての減税措置などは理屈がとおると思われる。また、春の賃上げから取り残される可能性の高い非課税世帯には直接給付を考えることになるのではないか。といったように、政権としてはいろいろなアイデアが浮かんでいると思われる。

 現時点では裏金事件もあって立憲民主党としては追い風的であるが、「安倍派処分」と「長老引退(追放)」の内容によっては人びとの政権への評価がかわる可能性もあると思われる。この点は用心しなければならないであろう。なにしろ相手は暴走宰相なので「まさかの一手」と野党のアイデアを臆面もなくとりこむのがお家芸であるから、油断は禁物ということである。

 そうなると野党は足元をすくわれるということで、与党の一角からだされた、年内のおそい時期の解散という異例の発信に驚いているが、まさか年末調整を視野にいれての発信であるのであれば、解散時期についての研究がそうとうすすんでいるということであろう。

 さらに、来月の訪米が支持率反転のきっかけとなるのか、これはだれにも分からないが、目先が裏金事件一色なので、逆に転機となるかもしれない。

 岸田氏にとって一擲乾坤を賭す解散総選挙はワンチャンスしかないのだから、おそらく必殺の構えであろう。だから侮ってはならない。前々回にも提起したように、立憲民主党は腰を低くしてすべてを譲歩してでも野党連携をすすめるべきであると思うが、あらためて薦める気はない。なぜなら、口先はともかく野党第一党指向が本心であるかぎり議員一人ひとりの当選戦略が優先されるので、最終的に選挙協力には期待できないということになる。

 ということで、泉代表も死にものぐるいの暴走宰相を正面でうけとめなければならない。それには単独ではとうてい無理である。合従策なしに勝機を迎えることはないとすべての人が考えていると思う。】

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